男 酔っ払ってるね。
友 最近さぁ、つくづく人間が信じられなくなってきて。狡いじゃん、人って。上手い答えが見つからないけど。僕の好きなラーメン屋に大好きな柚子胡椒がなくなって。必要な方はお声がけ下さいって書いてたけど、置いてあったんだよ、元々。コストカットかわかんないけど、そういうのがさぁ。性分なのかな? どうして狡く振る舞うの? 最近増えたよね、コロナで。
男 (痛いところを突かれている)
友 ごめん、酔っ払ってる。飲まずにいられないよ。最近視線が冷たいし。その点真っ当だね、賢治は。狡いこと何もしてないもん。変わったところはあるけど、たぶん賢治は優等生なんかじゃなくて、「こうあってほしい」と思って書いてる気がする。まぁ物書きの直観だけど。いまどこにいるの? 検索しても全然見つからないし、ホント寂しさが募るよ。自分は盛岡には帰れない。書いてるよ、帰れると信じて。もう宿命だね。表彰式で冷麺じゃじゃ麺死ぬほど食ってソウルフードを堪能したい。それだけを支えに。出来ることなら(と言いかけるが)もう言いません。待っています。
男、テレビをつける。
アナウンサー(声) 続いてのニュースです。全国各地でクマの出没が次々報告されています。先月はショッピングセンター内に侵入し、長時間居座ったのち、猟友会によって射殺されました。
男 (素朴な驚き)殺されちゃったの?
アナウンサー(声) 侵入したのはオスの大人のクマで、体長は130センチくらいと見られます。人里に降りてくるようになりついには市街地にまで出没したと見られています。今年はキャンプ場で襲われる被害も相次いでおり、
男、テレビを切り、スマホを検索する。
男 あった。(賢治グッズに向かって『なめとこ山の熊』の一節を読み聞かせる)「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめえも射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ。」(訛りだし)聞かせてくれだなぁ。(賢治人形に)もう迷わない。ご機嫌取るのはサヨナラだ。
男、友にラインを送る。
「長いことすまん。俺は大丈夫」
男、ラインを打ち終える。木刀を手に持ち、賢治グッズを見つめている。荒々しい目差しで。
暗転
―21―
幾数ヶ月が経過した。
男、宮沢賢治グッズと、アベノマスク、沢山のポリ袋を持って現れる。背中には木刀。
男、位置につき、残飯を漁り始める。
ゴミ清掃員がやってくる。
男、それを見て、
男 こっちゃ来んな! 邪魔だ! あっつさ行ってろ!! (木刀を振り回す)
清掃員がいなくなると、残飯作業を再開。袋の中から菓子パンが出てくる。
男、臭いを嗅ぐ。問題ないとわかるとムシャムシャと残飯を食べる。
ポリ袋に囲まれて男は食べ続ける。
それは『なめとこ山の熊』のラストシーンのようである。
幕
【引用・参考文献】
宮沢賢治作『なめとこ山の熊』(青空文庫)
福島章著『宮沢賢治―こころの軌跡』(講談社学術文庫)
521/523行目 42行/ページ 3
友 最近さぁ、つくづく人間が信じられなくなってきて。狡いじゃん、人って。上手い答えが見つからないけど。僕の好きなラーメン屋に大好きな柚子胡椒がなくなって。必要な方はお声がけ下さいって書いてたけど、置いてあったんだよ、元々。コストカットかわかんないけど、そういうのがさぁ。性分なのかな? どうして狡く振る舞うの? 最近増えたよね、コロナで。
男 (痛いところを突かれている)
友 ごめん、酔っ払ってる。飲まずにいられないよ。最近視線が冷たいし。その点真っ当だね、賢治は。狡いこと何もしてないもん。変わったところはあるけど、たぶん賢治は優等生なんかじゃなくて、「こうあってほしい」と思って書いてる気がする。まぁ物書きの直観だけど。いまどこにいるの? 検索しても全然見つからないし、ホント寂しさが募るよ。自分は盛岡には帰れない。書いてるよ、帰れると信じて。もう宿命だね。表彰式で冷麺じゃじゃ麺死ぬほど食ってソウルフードを堪能したい。それだけを支えに。出来ることなら(と言いかけるが)もう言いません。待っています。
男、テレビをつける。
アナウンサー(声) 続いてのニュースです。全国各地でクマの出没が次々報告されています。先月はショッピングセンター内に侵入し、長時間居座ったのち、猟友会によって射殺されました。
男 (素朴な驚き)殺されちゃったの?
アナウンサー(声) 侵入したのはオスの大人のクマで、体長は130センチくらいと見られます。人里に降りてくるようになりついには市街地にまで出没したと見られています。今年はキャンプ場で襲われる被害も相次いでおり、
男、テレビを切り、スマホを検索する。
男 あった。(賢治グッズに向かって『なめとこ山の熊』の一節を読み聞かせる)「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめえも射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ。」(訛りだし)聞かせてくれだなぁ。(賢治人形に)もう迷わない。ご機嫌取るのはサヨナラだ。
男、友にラインを送る。
「長いことすまん。俺は大丈夫」
男、ラインを打ち終える。木刀を手に持ち、賢治グッズを見つめている。荒々しい目差しで。
暗転
―21―
幾数ヶ月が経過した。
男、宮沢賢治グッズと、アベノマスク、沢山のポリ袋を持って現れる。背中には木刀。
男、位置につき、残飯を漁り始める。
ゴミ清掃員がやってくる。
男、それを見て、
男 こっちゃ来んな! 邪魔だ! あっつさ行ってろ!! (木刀を振り回す)
清掃員がいなくなると、残飯作業を再開。袋の中から菓子パンが出てくる。
男、臭いを嗅ぐ。問題ないとわかるとムシャムシャと残飯を食べる。
ポリ袋に囲まれて男は食べ続ける。
それは『なめとこ山の熊』のラストシーンのようである。
幕
【引用・参考文献】
宮沢賢治作『なめとこ山の熊』(青空文庫)
福島章著『宮沢賢治―こころの軌跡』(講談社学術文庫)
521/523行目 42行/ページ 3