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使い   私は使いです。
嫁    使い? 
使い   選択の時がきました。お腹のその子は人の子として生まれてくる。けれど、鬼の世界で育てるか、人間の世界
     で育てるかは、母親であるあなたが決めることができます。
嫁    ……そんな。
使い   さあ、どちらにしますか。
嫁    なんという宿命……。鬼の世界での人の子は、ここではまた異形となり、きっと苦しむことになる。だけど、
     あの人を殺した人間界にこの子を送るなんて、そんなことできるわけがない……!
使い   では、人の子として生まれても、ここで、この鬼ヶ島で育てますか。 
嫁    ……子の苦しみを背負うのが親の役目。だけどあの子にとって本当の幸せはどっちなのか……。
使い   少し時間を差し上げましょう。
嫁    待って!
使い   はい。
嫁    おまえは生命を司ることができるようだけど、それならば、敵の命を奪うことも頼めるの。
使い   ……そんな権限はありませんが、でもそれはあなたをさらに苦しめることになるのでは。
嫁    敵討ちはやめておけと?
使い   いいえ。けれど、あなたたちが助けた人間によって鬼は殺され、その結果その子は人の子として生まれること
     になった。あなたの子は、あなたが仇討ちをしようとしているその相手によって人間になったのですよ。

使いが去る。桜がゆっくり舞い始める。

嫁    この恨み……恨みで身体が張り裂けそうだ。何の因果があったというのか。異形であったことが因だというな
     ら、呪うべきは果ではなく運命だというのか。悔しい。夫を殺され、今また我が子をこの手で育てるべきか、
     人の世界に送るべきかを悩まなければいけないなんて……。

横たわる鬼のそばに行く。

嫁    けれど、どちらを選んでも、我が子にはいっぺんの曇りもない愛情を注ぎ、命をかけて守っていきましょう。
     そして必ずこの子を、幸せにしてみせましょう。

    使いが再び登場する。使いの方を見て立ち上がる嫁。
    
    幕。
    
    




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