もいる。で、全く予想していなかったのだけれど、電話をしたその日が正にその友達にと
っての卒業式の日だった。今ちょうど終わった所なんだとか。そういう日ならと思って、
自分が地元で行き付けにしていた店に夕飯に誘った。
待ち合わせ場所には四人来た。自分と、その友達と、共通の別の友達、そして自分にとっ
ては初対面の人物。その初対面の彼は、ちょうど自分が卒業した後に入れ代わる様に他の
高校から転入して来たらしかった。そして仲の良くなった面子がちょうど自分の周りにい
た人々で、自分の話もよく聞いていたらしい。だからなのか、少し話しただけでお互いに
疎通の仕方が分かった。なんだか自分と似ている気がする、と思った。
長居した末に店が閉まって、別の場所へと移動。夜中の二時だか三時だかになっていた。
場の雰囲気も既に盛り上がりを通り越して、盛り下がっている訳でもないけど最早あえて
テンションを上げる気にもならないという気だるい状況だった。
初対面の彼が口を開いた。『名前がさぁ、決まらないんだよ』。他の面子は彼の事情を既
に色々と知っている。しかし自分はまるで知らないので、会話の節々から彼の事情を読み
取って何処かで話題に合流しようと考えていた。どうやら彼の子供が生まれるらしいのは
分かった。自分よりも若くして家庭を持つ人と出会う機会がそれまであまりなかったの
で、敬意の気持ちが沸いた。『候補の名前をいくつか書いてあっちのお母さんに見せたん
だけど、もっと普通のにしろって言われるんだよ。○○○と結構必死になって一緒に考え
たんだけど』。
彼は聞き慣れた名前を口にした。自分にとって、自分の声で聞き慣れた名前。二年半の間
ずっと呼び続けた名前だった。
彼女が今は身篭って結婚を控えているというのは、あの電話で既に友達から聞いていた。
その時はどの感情よりも驚きが先に先に来てしまったので、しばらくはまともに考えられ
なかった。その後に一人で落ち付いて想像してみたけれど、まるで何も思い浮かばなかっ
た。唐突過ぎると判断の余地がなくなる。かつて自分が彼女に別れを切り出した時、自分
も彼女に同じ目に遭わせていたのだなと悟った。
彼と初対面を果たしたその時に、自分と似ている気がした。話題の好みとかそういった感
覚的なもののほうが要因として大きかったけれど、それと別の理由もあった。ピアス。彼
も自分と同じ位置に付けていた。彼が彼女にとってのそういう相手なのだと気付いて、こ
のピアスはいつ空けたのだろうというのが気になった。元から空けていたのかもしれない
し、彼女と出会ってから空けたのかもしれない。出会ってからであれば自発的だったの
か、それとも彼女にせがまれたのか。彼女と出会ってからせがまれて空けたのだとすれ
ば、彼は彼女の為にあの痛みを我慢した事になる。献身的な、あの痛み。
あえて聞く事ではなかったから確かめてはいない。けれど、彼はきっと出会ってから自発
的に空けたんだろうなと思う。男四人で夜通し酒を飲み明かす語らいの中で彼の人柄を目
の当たりにして、ぽつぽつと漏れる彼女への思いを聞いていたらそれを確信した。良い奴
だな、と思った。
それからまたしばらくして、彼と彼女と二人の間に生まれた子供に会った。それが最後で
もうしばらく何の遣り取りもないけれど、幸せにしていてくれたらいいなと願っている。
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っての卒業式の日だった。今ちょうど終わった所なんだとか。そういう日ならと思って、
自分が地元で行き付けにしていた店に夕飯に誘った。
待ち合わせ場所には四人来た。自分と、その友達と、共通の別の友達、そして自分にとっ
ては初対面の人物。その初対面の彼は、ちょうど自分が卒業した後に入れ代わる様に他の
高校から転入して来たらしかった。そして仲の良くなった面子がちょうど自分の周りにい
た人々で、自分の話もよく聞いていたらしい。だからなのか、少し話しただけでお互いに
疎通の仕方が分かった。なんだか自分と似ている気がする、と思った。
長居した末に店が閉まって、別の場所へと移動。夜中の二時だか三時だかになっていた。
場の雰囲気も既に盛り上がりを通り越して、盛り下がっている訳でもないけど最早あえて
テンションを上げる気にもならないという気だるい状況だった。
初対面の彼が口を開いた。『名前がさぁ、決まらないんだよ』。他の面子は彼の事情を既
に色々と知っている。しかし自分はまるで知らないので、会話の節々から彼の事情を読み
取って何処かで話題に合流しようと考えていた。どうやら彼の子供が生まれるらしいのは
分かった。自分よりも若くして家庭を持つ人と出会う機会がそれまであまりなかったの
で、敬意の気持ちが沸いた。『候補の名前をいくつか書いてあっちのお母さんに見せたん
だけど、もっと普通のにしろって言われるんだよ。○○○と結構必死になって一緒に考え
たんだけど』。
彼は聞き慣れた名前を口にした。自分にとって、自分の声で聞き慣れた名前。二年半の間
ずっと呼び続けた名前だった。
彼女が今は身篭って結婚を控えているというのは、あの電話で既に友達から聞いていた。
その時はどの感情よりも驚きが先に先に来てしまったので、しばらくはまともに考えられ
なかった。その後に一人で落ち付いて想像してみたけれど、まるで何も思い浮かばなかっ
た。唐突過ぎると判断の余地がなくなる。かつて自分が彼女に別れを切り出した時、自分
も彼女に同じ目に遭わせていたのだなと悟った。
彼と初対面を果たしたその時に、自分と似ている気がした。話題の好みとかそういった感
覚的なもののほうが要因として大きかったけれど、それと別の理由もあった。ピアス。彼
も自分と同じ位置に付けていた。彼が彼女にとってのそういう相手なのだと気付いて、こ
のピアスはいつ空けたのだろうというのが気になった。元から空けていたのかもしれない
し、彼女と出会ってから空けたのかもしれない。出会ってからであれば自発的だったの
か、それとも彼女にせがまれたのか。彼女と出会ってからせがまれて空けたのだとすれ
ば、彼は彼女の為にあの痛みを我慢した事になる。献身的な、あの痛み。
あえて聞く事ではなかったから確かめてはいない。けれど、彼はきっと出会ってから自発
的に空けたんだろうなと思う。男四人で夜通し酒を飲み明かす語らいの中で彼の人柄を目
の当たりにして、ぽつぽつと漏れる彼女への思いを聞いていたらそれを確信した。良い奴
だな、と思った。
それからまたしばらくして、彼と彼女と二人の間に生まれた子供に会った。それが最後で
もうしばらく何の遣り取りもないけれど、幸せにしていてくれたらいいなと願っている。
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