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佐「江上さん。あなたこそ、社会の癌でしょう。あの日のこと、いや、僕は全て知ってますので、非常に滑稽に映ります」

佐々木は歩き出す。
江上は助手席から飛び出し、佐々木の歩く方を警戒しながら運転席に座る。エンジンをかける。ゆっくりと動き出し、スピードが乗ってくる。
どんっ。


数時間前。
眠った江上が助手席にいて、佐々木はドライブレコーダーをいじっている。
一通り終えると、話を始める。

佐々木
「それでは生放送を始めましょう。自己紹介なんかは省いていきますね。僕のことはご存じの方も多いことでしょう。連日の報道で見ない日はありませんから。
なに安心してください。世間ではあれこれ言われている僕ですが、ただ、そんな誤解を解きたいだけなのですよ。これはごく普通のドライブ動画です。
夜風も心地いい時期になりましたね。そんな夜は話がしたくなります。少しばかりいいでしょうか。
実は僕、幼い頃に交通事故を目撃しているんです。轢かれたのは、当時同級生だった子、友達とは呼べないくらいの間柄でしたね。
父は確かに助手席に座っていたはずなのです。ですが、酷い酔い方をして酩酊状態でしたから、事故のあと、運転席に座らされたとして気づきません。
何しろ、記憶がないんですから。
罪の意識に苛まれ、世間からバッシングを受けた分だけ父は凹み、凹んだ部分は戻ってきませんでした。死人に口なしなどと言いますが、失踪した者にも口はありません。それはつまり、認めたも同然だったのでしょう。
被害者が幸せな一家四人であったことも良くなかったのかな。可哀想が過ぎて、全国ニュースになってしまったので。
当時はドライブレコーダーなんてありませんでしたから、皆さんが見ているような動画は残りませんでした。
まあ、誰も信じちゃくれませんがね。
口酸っぱく教え込んでくれた世間様の言う通りなんでしょう。カエルの子はカエルなんです。
そのことを証明できれば。
皆さんには、真実をお見せできるかと思います」

江上が起きる。

江「ん、んん」
佐「ああ、おはようございます。お目覚めですか」

数日後。
さらに詳しい検査の結果、ドーピング疑惑は晴れ、銅メダルが戻った、が。

近所のおばさん
「災難だったわね、あの子も。やっと疑惑が晴れて、銅メダルも手元に届いたって言うのに亡くなってしまうなんて。
ボンネットに跳ね上げられる動画(?)が配信されたってニュースで言ってたわね。私はさすがに見てないけど。
結局、他に家族もいないもんだから、メダルは国際オリンピック連盟に戻されるんですって。あれ、本当なのかしら。
きっと彼は伝説になるんじゃない?
波瀾万丈な人生だったんだもの。功績が称えられて当然よ。
ええ、私は信じていたわ。
ずっと。やってくれると思ってました」
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