冬子「でも、秋子さんにとってはいいことじゃない」
夏子「わかってる……。わかってるよ、そんなことは……。秋子にとっていいことだから祝ってあげよう、笑顔でいようと思ったよ。それが友だちとしてすべきことだって…。(辛そうに)でも、この心がどうにもならないんだよ。どす黒い気持ちがどんどん湧きあがってきて、そいつを押さえることができないんだよ」
春子、泣いている。
冬子「だから、ブレーキを壊れたままにしておいたの」
夏子「違うよ。たしかに直してあげた……。でも……最後までは直さなかった。最後まで直そうとすると、私の心の奥にあるものが邪魔をするんだ。なんで裏切り者にそんなことをするんだ。何いい子ぶってるんだよって……。だから、だから……」
と泣き崩れる。
春子「ごめんなさい…。本当に、ごめんなさい…」
土下座をするように頭を下げる。
冬子「(も涙を拭いて)その気持ちはわかるよ。でもね、つらかったのはあなたたちだけじゃない。あなたたちは進学できないという劣等感から、私をいじめの標的にしたでしょう。私はただ本が好きで読んでいただけなのに、私をオタクだ、腐女子だ、キモイって、さんざんからかったよね。私がどんな気持ちだったかわかる。クラスのみんなも私を避けるようになって、私はいつも一人だった。一日中、教室にポツンといるしかない辛さがわかる? 友達が一人もいない寂しさがわかる?」
冬子、泣き声になる。夏子と春子、押し黙って聞いている。
冬子「でも、そんな私には秋子さんは話しかけてくれた。しかも、進路の悩みの打ち明けてくれたの。私は嬉しかった。涙が出るほど嬉しかった。こんな私でも頼りにしてくれる人がいるんだと思うと、それだけで死んでもいいとさえ思った。信じられないよね、こんな気持ち。でも、本当にそう思ったんだよ」
夏子と冬子、じっと背中を向けている。
冬子「秋子さんは何度も言っていたよ。あなたたちの気持ちがわかるから、二人に申し訳ない、本当に申し訳ないって……。そんな秋子さんをあなたたちは…」
と怒りを込める。夏子と冬子、頭を覆ってうずくまる。
冬子「私はあなたちちにどう復讐しようかと考えた。先生に話すことも。警察に突き出すこともできた。でも、そんなことをしても秋子さんは元には戻らない。では、どうすればいいのか、考えに考えて、あなたたちに心から反省させることにした。だから、あなたたちがしたことを台本に書いて、あなたたちに演じてもらったの。こんなことができるのは今日しかないから」
ホワイトボードにある「センターまであと20日」という張り紙を取ると、「祝・卒業」とある。
冬子「秋子さんだけは卒業できなかったね」
うなだれて、張り紙を破る。
夏子「私たちはこれからどうすればいいの?」
冬子「もういいよ。ありがとう……。ここまで演じてもらって、お互いに言いたいことを言って、少しは気が晴れたような気がする……」
と言って、台本を鞄にしまう。
そこへ、大作と雄一がやって来る。
皆、そしらぬ風を装う。
雄一「あ、やっぱりまだいたんだ」
だが、誰も答えない
雄一「(ちょっと不審に思うが)明日はバタバタするから、今言っとくよ。……卒業おめでとう」
大作「卒業。おめでとう」
夏子と春子、きょとんとなる。
雄一「小さい頃からいろいろあったけど、お前らと一緒に過ごせて楽しかったよ。これ本当だよ。…卒業したら、もう会えなくなるけど、たまにはメールくれよな。どうしてるのか心配だから。…それ、言いにきたんだ。じゃあな」
大作「じゃあね」
雄一と大作、笑顔で手を振って去る。
夏子と春子、顔を見合わせる。ほっと緩むものがある。
冬子「(独白)あの子たちは何も知らない。たまたまここを通りかかっただけ。でも、何も知らない方がいい」
冬子、夏子と春子に近づく。
冬子「卒業…おめでとう……」
握手をしようと手を出す。
夏子「ごめんね…。いろいろと、ありがとう……」
春子とともに手を差し出すが、双方が手を握ることなく引っ込め、お互いの顔を見つめた後、交差するように去っていく。
暗転。
女の声「秋子…秋子……秋子! 先生、来てください。娘の目が開いたんです!」
幕
453/455行目 42行/ページ 3
夏子「わかってる……。わかってるよ、そんなことは……。秋子にとっていいことだから祝ってあげよう、笑顔でいようと思ったよ。それが友だちとしてすべきことだって…。(辛そうに)でも、この心がどうにもならないんだよ。どす黒い気持ちがどんどん湧きあがってきて、そいつを押さえることができないんだよ」
春子、泣いている。
冬子「だから、ブレーキを壊れたままにしておいたの」
夏子「違うよ。たしかに直してあげた……。でも……最後までは直さなかった。最後まで直そうとすると、私の心の奥にあるものが邪魔をするんだ。なんで裏切り者にそんなことをするんだ。何いい子ぶってるんだよって……。だから、だから……」
と泣き崩れる。
春子「ごめんなさい…。本当に、ごめんなさい…」
土下座をするように頭を下げる。
冬子「(も涙を拭いて)その気持ちはわかるよ。でもね、つらかったのはあなたたちだけじゃない。あなたたちは進学できないという劣等感から、私をいじめの標的にしたでしょう。私はただ本が好きで読んでいただけなのに、私をオタクだ、腐女子だ、キモイって、さんざんからかったよね。私がどんな気持ちだったかわかる。クラスのみんなも私を避けるようになって、私はいつも一人だった。一日中、教室にポツンといるしかない辛さがわかる? 友達が一人もいない寂しさがわかる?」
冬子、泣き声になる。夏子と春子、押し黙って聞いている。
冬子「でも、そんな私には秋子さんは話しかけてくれた。しかも、進路の悩みの打ち明けてくれたの。私は嬉しかった。涙が出るほど嬉しかった。こんな私でも頼りにしてくれる人がいるんだと思うと、それだけで死んでもいいとさえ思った。信じられないよね、こんな気持ち。でも、本当にそう思ったんだよ」
夏子と冬子、じっと背中を向けている。
冬子「秋子さんは何度も言っていたよ。あなたたちの気持ちがわかるから、二人に申し訳ない、本当に申し訳ないって……。そんな秋子さんをあなたたちは…」
と怒りを込める。夏子と冬子、頭を覆ってうずくまる。
冬子「私はあなたちちにどう復讐しようかと考えた。先生に話すことも。警察に突き出すこともできた。でも、そんなことをしても秋子さんは元には戻らない。では、どうすればいいのか、考えに考えて、あなたたちに心から反省させることにした。だから、あなたたちがしたことを台本に書いて、あなたたちに演じてもらったの。こんなことができるのは今日しかないから」
ホワイトボードにある「センターまであと20日」という張り紙を取ると、「祝・卒業」とある。
冬子「秋子さんだけは卒業できなかったね」
うなだれて、張り紙を破る。
夏子「私たちはこれからどうすればいいの?」
冬子「もういいよ。ありがとう……。ここまで演じてもらって、お互いに言いたいことを言って、少しは気が晴れたような気がする……」
と言って、台本を鞄にしまう。
そこへ、大作と雄一がやって来る。
皆、そしらぬ風を装う。
雄一「あ、やっぱりまだいたんだ」
だが、誰も答えない
雄一「(ちょっと不審に思うが)明日はバタバタするから、今言っとくよ。……卒業おめでとう」
大作「卒業。おめでとう」
夏子と春子、きょとんとなる。
雄一「小さい頃からいろいろあったけど、お前らと一緒に過ごせて楽しかったよ。これ本当だよ。…卒業したら、もう会えなくなるけど、たまにはメールくれよな。どうしてるのか心配だから。…それ、言いにきたんだ。じゃあな」
大作「じゃあね」
雄一と大作、笑顔で手を振って去る。
夏子と春子、顔を見合わせる。ほっと緩むものがある。
冬子「(独白)あの子たちは何も知らない。たまたまここを通りかかっただけ。でも、何も知らない方がいい」
冬子、夏子と春子に近づく。
冬子「卒業…おめでとう……」
握手をしようと手を出す。
夏子「ごめんね…。いろいろと、ありがとう……」
春子とともに手を差し出すが、双方が手を握ることなく引っ込め、お互いの顔を見つめた後、交差するように去っていく。
暗転。
女の声「秋子…秋子……秋子! 先生、来てください。娘の目が開いたんです!」
幕
453/455行目 42行/ページ 3