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貝谷 先生、
前川 なに?
貝谷 先生は、いろんなところで、おんなじ人を見たりしません?
前川 ・・・よく意味がわからないが。
貝谷 何かが起こるとき、だれかがいますよね。
前川 それは、だれかは、いるだろう。なにかが起こっているんだから。
貝谷 起こった出来事はだれかが見ていて、その出来事の中にはだれかがいて、そのだれか、が「だれ」か、覚えていますか?
前川 いや、・・・・・・いちいち覚えていないだろう、街の雑踏、そのひとりひとりの顔なんて。
貝谷 時々、ふと思い出すんですよ、いろんな出来事のあれこれを。すると、どこにも、その顔がいる気がするんです。
前川 どこにも。
貝谷 どこにも、かしこにも、振り返った彼の顔も、ちらりと目を向ける女性の顔も、覚えていないはずなのに、無意識がその顔が、「だれ」であると訴えかけて、そう見せるんですよ。
前川 原風景・・・みたいなものだろうか。
貝谷 原風景・・・?
前川 日本人は、田んぼのある田舎の風景を見ると、望郷の念を抱くそうだ。そんな場所に住んだことがなかったとしても、懐かしく感じるそうだ。そんな風に、原人間・・・みたいな感じに懐かしくというか、思い出してしまう人間が存在しているのではないだろうか・・・と、君の話を聞いて、そう思った。
貝谷 ははは・・・そんなのはいないでしょう。たぶん僕のも、たとえばの話ってやつです。
前川 それがいい。
貝谷 え?
前川 笑い飛ばすというのは、一種のまじないなんだそうだ。
貝谷 笑って、飛ばすってことですか?
前川 その通り。だが、笑えばいいというものではない。笑い合わなければいけないんだ。
貝谷 一人で笑ってたら、余計おかしい人ですもんね・・・。
前川 だから、だれかといることが必要なんだよ。たとえば、私にとって、君が遊びに来てくれているように。
貝谷 ・・・はい。
前川 君がどこかに行きそうになったときには、手を引いてやろう。だから、私がどこかへ行きそうになったときには、
貝谷 ええ、そのときは、きっと。


暗転。

これにて閉幕。


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