夏の海で逢いましょう
光希    大好きだった祖母が亡くなった。
      でも、悲しいのに、涙が、出ない。
      なんて薄情な子なんだ、って親や親戚連中が言ってるのが聞こえてくる。
      そんなお通夜の場にいたくなくて、私はひとり、海にきた。
      このまま、海に入って死んじゃおうかなぁ。
      そうすればお葬式も一度ですむじゃん、なーんて。
      本気で思ったわけじゃないけど、でもちょっぴり本気で、波打ち際まで向かう。
      今夜も熱帯夜のはずだけど、
      この入り江は涼しい風が吹いていて、水も冷たい。
      夏になると必ず祖母の家を訪ね、ここでひとり遊んだ。
      ここは祖母に教えてもらった秘密の場所だから
      誰にも邪魔されない、と思ってたんだけど……。


アヤ   「ねえ!
      ここで何してるの?」

光希   「……え」

アヤ   「あなた高校生? 見ない顔ね」

光希   「お葬式でこっちにきてるだけだから」

アヤ   「ふーん。だったら家に帰った方がいいんじゃないの?」

光希   「私の勝手でしょ」

アヤ   「でも、家の人心配するんじゃない?」

光希   「しないしない。だからほっといてよ」

アヤ   「そっか。……ってことは暇だよね?」

光希   「私、ほっといて、って言ってるんだけど!」

アヤ   「ちょっとだけ私とお喋りしない?
      私もさ、家飛び出してきて、しばらくは戻らないつもりだから。
      よかったら話そうよ」

光希   「はぁ?」

アヤ   「地元の子じゃないんでしょ?
      だったら私が何しゃべったって平気だし、
      そっちが何言っても、平気じゃない?
      もう会うこともないかもしれないんだしさ?」

光希   「うざ……もしかして、酔ってる?」

アヤ   「あったりー!
      やっぱ酔ってるのわかるー?
      私23なんだけど、実は今日はじめてお酒飲んだんだよね〜」

光希   「最悪。酔っ払いの話し相手なんてやってらんないよ」

アヤ   「そう言わずにさー!」

光希   「しつこい!」

アヤ   「……だって、こうでもしなきゃ、今にも死にそうなカオしてるんだもん。
      ほっとけないじゃない」
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