カブトムシ
狭い事務室。
中央に事務机と、椅子が二脚。
二人の人物が向かい合って座っている。
一人はスーツを着た「チーフ」（男性でも女性でも可）。険しい表情を浮かべている。
一人はヒゲをたくわえた紳士。こちらは余裕のある笑みを浮かべている。膝に長いトレンチコートを掛けている。
そして紳士の後ろに、巨大なカブトムシ。
壁に背をもたれ、腕組みをしてじっとチーフと紳士を見つめている。
チーフと紳士はカブトムシの存在には気づいていない様子。
チーフがため息をつき、ゆっくりと口を開く。
チーフ
「狭い部屋ですいません」
紳士
「いえいえ。かえって落ち着きますよ」
チーフ
「そうですか」
紳士
「あなたがここの責任者?」
チーフ
「ええ」
紳士
「そう。お若いのに大したもんだ」
チーフ
「どうも」
紳士
「……ああ、ここは暖かいな」
チーフ
「何からお聞きすればいいでしょうね……」
紳士
「何なりとどうぞ」
チーフ
（苦笑して）「堂々とした人だ」
紳士
「というと?」
遠くで水がザァザァと流れる音がしている。
チーフ
「……聞こえますか、あの音」
紳士
「ええ」
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