瞳・發・見・傳

(ひとみはっけんでん)
初演日:2010/8 作者:志野英乃
瞳・發・見・傳


                    作・志野 英乃


      倭人は帯方の東南大海の中にあり。
      山島に依りて國邑をなす。
      邪馬壱國、女王の都する所なり。
      その國、男子を以て王となし、住まること二十年。
      國乱れ、光失う年あり。
      乃ち一女子を立てて王となす。
      名付けて卑弥呼という。
      鬼道に事え、能く衆を惑わす。
      男弟あり、佐けて國を治む。
              「魏志倭人傳」より


      配役 ヲロ    (北の辺境の民)
         ヒミカ   (皇女・ナザギの妹の娘)
         スメラ   (皇子・ヒミカの弟)
         ツクヨミ  (スメラの従者)
         リガン   (大陸から来た渡来人)
         ノノベ   (ヒミカの従女)
         ヤツカ   (朝廷の家来)
         チムロ   (朝廷の家来)
         イワレ   (朝廷の家来)
         ミマキ   (朝廷の家来)
         エズサ   (朝廷の家来)
         アシナ   (朝廷の家来)
         ワラビ   (朝廷の家来)
         ウギリ   (朝廷の家来)
         クロマロ  (朝廷の重臣)
         ナザギ   (大王)


□ 舞台 □
中つ国 (なかつくに) 大王の統治する人の住む処。
天上  (てんじょう) 神々の住む処。
黄泉  (よみ)    死者の住む処。夢の世界とつながっている。
辺境  (へんきょう) 辺境の民の住む処。北の辺境と南の辺境がある。
大陸  (たいりく)  大陸の民の住む処。魏が統治している。

□ 人々 □
大王  (おおきみ)     中つ国を統治する王。
皇女  (みこ)       大王の一族の女子。姫とも呼ばれる。
皇子  (おうじ)      大王の一族の男子。
辺境の民(へんきょうのたみ) 大王に服従せず、辺境に住んでいる人々。
巫女  (みこ)       天上の神々の意思を聞く女子。

□ 語句 □
文字  (もじ)
 大陸から渡来人によって伝えられる。
記紀  (きき)
 ナザギの命によってクロマロに編纂させている史書。
淡島(あわしま)・ヒルコ
 中つ国ができる前にあった世界。出来損ないであると神々にみなされ捨てられた。
天の剣 (あめのつるぎ)
 大王になる者がその証として持つよう天上の神々から授かった剣。あらゆる物を切り
 裂くことができる。
天の鏡 (あめのかがみ)
 神々の意思を聞く者がその証として天上の神々から授かった鏡。あらゆるものを映す
 ことができる。
天の勾玉 (あめのまがたま)
 次に大王になる者がその証として持つべく天上の神々から授かった勾玉。
己巳の変(つちのとみのへん)
 二十年前に起きた政変。当時のナザギ皇子がヘビ一族の大王らの暴虐ぶりに業を煮や
 し、大王の持っていた天の剣で斬りつけた。不思議な事に大王のヘビ一族、祭祀を司
 っていたムシ一族が一瞬にして皆消え去った、という一連の事件。二つの一族は、天
 上の神々の怒りに触れて消え去ったのだろう、と言われている。


   ■ 一 ■

声2 おおっ!かような所に人間が倒れておる!
声3 おおっ!旅の者の行き倒れじゃろうか?!
声2 よく見よ!小さな赤子を抱いておるぞ!
声3 おおっ!まことじゃ!小さな赤子がおる!
声1 ……。(何かつぶやく)
声2 ん?この者はまだ生きておる!何かつぶやいた!
声3 何をつぶやいておる?!もっと大きな声で申せ!
声1 ……こ、この赤子を……。
声2 この赤子を、何だ?!
声3 どうせよというのだ?!
声1 ……この赤子を……お願いいたしまする……。
声2 この赤子を吾等に頼むと言うのか?!
声3 吾等に育てよ、と言うのか?!
声1 ……。(息絶える)
声2 し、死んでしもうた!
声3 死んでしもうた!
声2 ……おいっ!
声3 どうした?!
声2 ……こ、この者の体の下半分を見よ!!
声3 体の下半分?……うわーっ!!
声2 おぞましや!!
声3 おぞましや!!
声2 見たこともない異様な姿!!こ、この者は人間ではないぞ!!

   ■ 二 ■

ヲロ ……。
ヒミカ ……。

   (ヲロ、ヒミカ、抱き締めあって)

ヲロ ……ヒミカ。
ヒミカ ……ヲロ。

   ■ 三 ■

ヤツカ 星が、星が流れ始めました!
チムロ 星が流れ始めた!
クロマロ おおっ!闇を切り裂いて右へ、左へと!
スメラ 星はあといくつある?!
ヤツカ 二つだ!
チムロ もう二つしかないのか!
ツクヨミ ……時間の問題じゃ……その二つもやがて墜ちる。
ヤツカ ああっ!また、一つ墜ちた!
全員 ああっ!
スメラ 残るはあと一つだ!
クロマロ 残る星はあと一つのみ!
ツクヨミ あの星もやがて墜ちる。あの星が墜ちれば、この世は闇じゃ。
スメラ 黄泉に堕ちるのか!
ヲロ しっかりしろ!気を確かに持つのだ、ヒミカ!
ヒミカ ……ヲロ。
ヲロ ヒミカ!ヒミカ!

   (暗闇へと墜ちていく)

   ■ 四 ■

スメラ ツクヨミ、それは何だ?
ツクヨミ 渡来人の持たらした草の実を煮て干したものにございます。お召し上がりに
   なりますか?
スメラ (もらって食べて)うむ。
ツクヨミ コメと呼ばれるものにございます。
スメラ 南の辺境の地へと来てはみたが、特に手掛かりになるようなものは見あたらん
   な。
ツクヨミ はい。皇子、そろそろ帰りませぬと姫様がご心配に。
スメラ うむ。確かに姉上は心配しているだろうよ。目の病の方もさらに悪くなってお
   らねばよいのだが。
ツクヨミ はい。しかし、それでも姫様は鏡の前を離れぬそうでございまする。
スメラ 姉上は神々の意思を伺う巫女として育てられたわけではないが、どうやらその
   資質を持っておるらしい。それも、神がかり的な。
ツクヨミ 鏡が人を選ぶということもあるのでしょう。今や天の鏡を使いこなせるのは
    姫様だけにございます。
スメラ うむ。のう、ツクヨミ。
ツクヨミ はい。
スメラ この中つ国の異変がおさまれば、姉上の目の病も治るような気がしてならぬの
   だ。
ツクヨミ ……その逆ということも考えられますな。
スメラ その逆?
ツクヨミ ……はい。姫様の病が治れば、この中つ国の異変がおさまるということも。
スメラ ……ツクヨミ。
ツクヨミ はい。
スメラ 北の辺境に地には行ってはおらぬが……。
ツクヨミ ……。
スメラ これ以上探しても無駄やもしれぬな。
ツクヨミ ……。
スメラ 少し考え直した方がよいのやもしれぬ。
ツクヨミ と、おっしゃいますと?
スメラ なぜ吾等はかような災いを受けるに至ったのか?それを考えることが肝要なの
   だと気づいた。
ツクヨミ ……。
スメラ ツクヨミ。
ツクヨミ 何でございましょうか?
スメラ 一つ昔のことを尋ねるのだが。
ツクヨミ ……。
スメラ 己巳の変について教えてもらいたいのだ。
ツクヨミ ……。
スメラ この度のすべてのことは、元をただせばすべて己巳の変から始まっておると思
   うのだが。
ツクヨミ ……。
スメラ 教えてはくれぬか?
ツクヨミ ……。

   ■ 五 ■

ヲロ ……。
リガン ……。
ヲロ 誰だ?
リガン ヲロ様にあっちゃかなわない……リガンでございますよ。
ヲロ 何だ。渡来人か。
リガン どこへ行くのでございます?旅の支度などして。
ヲロ そちの知らない遠い所だ。
リガン ……吾の知らない遠い所?
ヲロ そちこそ吾に何の用だ?
リガン いや、海で遭難してこの北の辺境の地に流れ着いたのはいいのですけどね、い
   つまでもかような所にもおられぬかと。
ヲロ この国の言葉も覚えたのにか?
リガン ええ、怪我も治りましたんで、そろそろ大陸に帰りたくなりまして。
ヲロ 大陸か。
リガン ねえ、ヲロ様。もし南の方に行くのだったら、このリガンも連れて行ってもら
   えませんかね?
ヲロ ……。
リガン ヲロ様と一緒なら追い剥ぎや山賊にやられる心配もありませんし。
ヲロ ……。
リガン ヲロ様、ね、どうです?
ヲロ 勝手にするがいいさ。
リガン ありがとうございます。では、勝手にしやす。
ヲロ 遠いぞ。この北の辺境の地から都へは。
リガン えっ?やっぱり都に行くのですかい?それはそれは、きっと都に行けば大陸へ
   行く船も見つかりましょう。
ヲロ やもしれぬ。
リガン で、ヲロ様は都に何をされに行くのです?
ヲロ ……。
リガン あ?余計なことでしたね。黙ってついてまいりやすです。はい。

   ■ 六 ■

ヒミカ ノノベ、スメラはまだ戻りませぬか?(目に包帯をしている)
ノノベ はい、姫様。
ヒミカ 鏡がざわついておるようです。スメラの身に何かないかと心配でなりませぬ。
ノノベ 姫様、鏡に何が映っておるのかお見えになるのでございますか?
ヒミカ いいえ、見えはしませぬが感じるのです。
ノノベ そうでございましたか。皇子様は姫様のご病気が治るお薬を探しておられるの
   やもしれません。
ヒミカ この病が薬で治るものでしょうか?
ノノベ ……。
エズサ ……。
アシナ ……。
ヒミカ 近頃、この中つ国では数々の異変が起きておると聞きます。
ノノベ はい。大きな帚星が突如現れ消えたとか、月が崩れてしまったなどと、皆、噂
    しております。
ヒミカ もしや、スメラはそのことを探っておるのやもしれませぬ。
ノノベ はい。

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