突然の来訪者
【突然の来訪者】


       明転すると、黒ずくめの女性が一人。
       手には杖を持っている。
       女性、杖でリズムを取るように、床にトントンと突いている。
       奧から、バスローブ姿の陽子が来る。

女性 「(陽子に気付き)あ、どうですか?」
陽子 「…信じられない」
女性 「まだ信じられませんか。まあ、皆さん、最初はそう言いますからね」
陽子 「もう一度見てくる」

       陽子、再び奧へ消える。

女性 「(奧に向かって)何度見ても同じですよ」

       女性、再び杖を突く。
       何かに気付いたようだ。

女性 「あ! ここで半音上がるんだ」

       女性、再び杖を突く。
       陽子が戻って来る。

陽子 「どうしても納得できなんですけど。なんで私が?」
女性 「なんでって聞かれても。そうなっちゃったんだから仕方ないとしか」
陽子 「仕方ないって…仕方ないで片付けないでよ!」
女性 「あのね、あなたの命の長さは生まれた時から決まっていたのです。30年と96日。つまり、今日があなたの命日って訳。あなたは今日、死んだのです!」

       陽子、ショック。

陽子 「…嘘よ」
女性 「嘘嘘って言いますけど、あなたも見たでしょ。自分の姿を。もう一回見てきますか? 何度見ても同じですけど。もう一度ハッキリ言います。あなたは死んだの!」

       陽子、ショック。

女性 「死んだの!」

       陽子、ショック。

女性 「あなた、面白いですね。見てて飽きません」
陽子 「つまり、あなたが言うには、お風呂場にいる私はすでに私ではなくて、今ここにいる私は私の魂だと言いたいのね?」
女性 「正解! おめでとう。正解者にあの世行きの片道チケットを!」

        女性、拍手。

陽子 「いらないわよ! そんなもの!」
女性 「いらないって言っても、すでに発行されちゃってますし」
陽子 「何かの間違いよ。絶対に!」
女性 「菊地陽子さん。1977年7月10日生まれ。神奈川県出身。父・晴彦と母・公子の長女として生まれ、弟と二人兄弟。小・中・高と県立の学校に通い、短大を卒業後、広告代理店に勤めるが3年で退社。その後、輸入雑貨の販売店に勤め、同じ職場の男性と付き合うが、寝ている時にケツをボリボリかいている姿を見られ、幻滅されて捨てられる。傷心から会社を退社することになり、現在の派遣会社に勤め始める。…まだ続けますか?」
陽子 「…もういいわ」
女性 「納得していただけました?」
陽子 「…死因は何よ?」
女性 「風呂場で転倒した時による後頭部強打です」
陽子 「カッコ悪ッ! 私の人生の結末はそれ?」
女性 「人生の終わりなんてそんなものです。はかないものです」
陽子 「そんなことない! 私はね、ちゃんとした死に方をしたかったのに」
女性 「ちゃんとした死に方とは?」
陽子 「そりゃ、好きな人と一緒に暮らした家で、家族に囲まれて…」
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