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一人芝居「スーパーアイドル風子」

　「スーパーアイドル風子」　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作：澤根孝浩

−登場人物−

・北乃　風子（２９）

　　　　（照明）地明かり、フェイドイン。

　　　　ポケットティッシュを配っている風子。
　　　　少し時間が経過する。ふと、腕時計を見る風子。
風子：あっ！　びっくりしたぁ。まだ二分しか経ってない。おっかしなぁ。もう二時間は　　　やったかと思ったのに…って、そんなわけないわよ！
　　　　少し間が空く。
風子：…一人乗り突っ込みしちゃった。悪い癖。治さなきゃね。（鼻歌）ふん、ふ〜ん。
　　　　またティッシュを配り始める風子。そして、すぐに腕時計を見る。
風子：…あっ、まだ三分しか…って…ダメダメ。一人乗り突っ込み禁止よ、わたし。この　　　ティッシュ配りも、スーパーアイドルになるためのレッスンなんだから。頑張れ、　　　わたし。頑張れ、ニッポン。
　　　　ティッシュ配りを再開して、すぐに止める風子。
風子：芸能事務所に入って、アイドルグループにも入った。…わたし、夢の階段を駆け上　　　っている…。
　　　　感慨深く遠く見つめる風子。唐突に前に向き直り、大きな声を出す。
風子：みなさーん！　わたしー、アイドルグループ４６４９のフーコでーす！
　　　　手を大きく振る風子。
風子：…あぁ、人が円状に離れていく…。あぁ！　いけない、いけない。今はレッスン中　　　だった。レッスンっていうと、ダンスとかボイストレーニングとかかと思ったら、　　　うちの事務所はこうやってティッシュ配りに、夜はキャバクラで接客って…なんか　　　変わってるぅ…って、お前、騙されてるぞー！　…あはは。
　　　　笑っている風子。
風子：そなわけ、ない、ない。…さ、バイト…じゃなくて、レッスン、頑張ろう。
　　　　ティッシュを配り始める風子。
　　　　人に出会った様子の風子。
風子：チャコちゃん！　うん？　うん、レッスン中。あ、チャコちゃんもこれからレッス　　　ンなんだ。うん！　お互い、頑張ろうね！　４６４９をどこにも負けないアイドル　　　グループにしよね！
　　　　ハイタッチをする風子。
　　　　手を振って、見送っている様子の風子。
風子：チャコちゃんも頑張ってるなぁ…。チャコちゃんのレッスンは、道路でなんかこん　　　なので…（カウンターを押しているジェスチャー）数えるレッスンだって。あはは。　　　何の役に立つんだろう。でも、チャコちゃん、たいへんだなぁ。四十五歳で、子供　　　七人もいるのに…って、遅咲きすぎだろう！って…あ、また乗り突っ込みしちゃっ　　　た…。
　　　　遠い目をする風子。
風子：きっと事務所の人は、こういう過酷な中でも輝きを失わないように鍛えてくれてい　　　るんだわ。負けちゃダメ、わたし。
　　　　ティッシュ配りを始める風子。今度は、手を振ったり、ポージングしながら配っ　　　　ている。時々、受け取ってもらっている様子。
風子：効果抜群ね。アイドルパワー。…ティッシュ、たくさん無くなったもの。
　　　　テッシュの入れているカゴを見る風子。
風子：…まぁ、脂ぎった気持ち悪いおじさんが一人で何度も往復して、貰ってっただけだ　　　けど。その度、手とか触られて気持ち悪かったなぁ…って、それ痴漢だろー。あは　　　は。
　　　　笑う風子。
　　　　人と会った様子。
風子：あ、チャコちゃん！　どうしたの？　あのなんか…数えるレッスンは？　え？　ア　　　イドルを止める…！？　そんな、何言ってるの！？　ダメだよ。４６４９は、４６　　　４９人のアイドルグループを目指す、まだわたしとチャコちゃんしかいないグルー　　　プなんだから！　チャコちゃんが辞めたら、わたし、一人じゃない！　そもそもグ　　　ループじゃなくなっちゃうよ！　とにかくダメだよぉ…。
　　　　チャコちゃんの肩をつかんで訴えている風子。
風子：…え？　騙されてる？　これはただのバイトでお金は事務所が受け取ってる？　バ　　　イト先の班長さんが言ったの？　そんなはず…そんなはずない…けど…確かに事務　　　所に入るときに１００万円、４６４９に入るときに１５０万円払ったけど…そんな　　　…そんな…って絶対に騙されてるじゃーん！
　　　　笑う風子。
風子：ない、ない。いろいろ宣伝とかにお金が掛かるのよね、きっと。…あれ、チャコち　　　ゃん？　…いない。…チャコちゃーん！
　　　　キョロキョロしていると、後ろから誰かに声をかけられた様子の風子。
風子：え…？　お巡りさんが何です？　サインですか？　…違う？　許可…？　わたし、　　　そういうの、わかりません。アイドルなので…。
　　　　引っ張られている様子の風子。
風子：ちょ、ちょっと…。…痛っ！　痛た…。ひっぱらないでくださいぃ…。
　　　　舞台袖、寸前まで連れて行かれる様子の風子。
　　　　そこで、唐突に振り払って、逆側の舞台袖まで走っていく風子。
　　　　ピタリと止まり、振り返る風子。
　　　　手裏剣のようにポケットティッシュを掛け声とともに、投げる風子。
風子：わーたーしはーすーぱーあいどーるのーふぅーこーよー！
　　　　投げ終わったところで、逃げ出す風子
　
　　　　（音響）フェイドイン→アウト。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＥＮＤ

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