PASSION・パシヲン
よるべなき幼き日の情熱によせて
【登場人物】

 ハルヲ(ハルコ)
 ミヨコ
 爺
 信行

 母
『父』(英雄)

勝利(声)

他に見せ物小屋・遊びなどで人数を増やす事は可能です。

      *     *     *     *     *    *    *



 夜です。今夜は空の星が変です。ボンヤリとウニかヒトデのように見えます。
 頭の中でピアノ…鳴ります。優しく鳴ります。せつない音色です。
 暗闇の中に浮かんで見えるのは、“自称”ハルヲ君です。お母様の声、聞こえてきます。


「幸福とは何ですか?」
ハルヲ
「早く大きく強くなって、立派な兵隊になり、お父様、お母様、わが大日本帝国、そして陛下のため
に、戦場でめざましい働きをして…命を捧げて、靖国の英霊となることです。」

「本当に…そう思いますか?」
ハルヲ
「はい!」

「なら…お父様は…とても幸福になられたのです。けれど、もう、お前の頭を撫でる事も、私を抱き
しめて下さる事も出来ないのです。」
ハルヲ
「お母様 !そのような女々しい事を云わないで下さい!お父様は靖国神社にいらっしゃいます。
いつも いつも、私達を見守っていて下さるのです。護って下さるのです。」

「…そう 、そうですね。ごめんなさい…ハルコ、私があなたぐらい強くなれたら…。明日、二人で
お父様に会いに行きましょうね。もう、おやすみなさい・・」
ハルヲ
「おやすみなさい。お母様。」

  パタンとドアが閉まります。
  ハルヲは寝台に倒れます。 肩がゆらゆら揺れてます。
  聞こえない声、心から洩れてます。ベッドも、窓も、電球の傘も…
  泣いているみたいです。
  てるてるぼうず、てるぼうず、お月さまの中、揺れてます。(母の自殺・・)
  ハルヲの心、凍りそうです。

ハルヲ
「お母様!おかあさまぁ..!!」

  ぽくぽくぽくぽく、チ..ン。

 雨です。銀色の雨が、銀色の髪に降っています。
 円く広がったスカァトが雨水を吸い上げて…
 そう、まるで切り落とされた朝顔の花が、大地にキスしてるようです。
 この女の人の心は留守です。

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