それでも彼はやってない方向で
それでも彼はやってない方向で

作 渡辺キョウスケ


登場人物

河原子(かわらご)・・・駅員・先輩(♂)
桜川(さくらがわ)・・・駅員・後輩(♂)
久慈浜(くじはま)・・・女子高生(♀)
水木(みずき)・・・サラリーマン(♂)
茂宮(もみや)・・・大学生(♂)
鮎川(あゆかわ)・・・売店販売員(♀)


 舞台、駅事務室。
 長机が一つ。折りたたみ椅子が幾つか。
 後ろにはホワイトボード。板面はマグネットで貼られた書類で一杯。

 桜川、少年ジャンプを読んでいる。

 河原子、事務室に入ってくる。

河原子「(桜川がいるのを発見し)あ・・・オイ、桜川」
桜川「・・・(気付かずジャンプを読み続ける)」
河原子「・・・」

 河原子、笛をピーッ!と吹く。

桜川「!? どわっ!?」

 桜川、驚いた拍子に椅子から落ちる。

桜川「イテテ・・・(河原子に気付いて)あ、河原子先輩」
河原子「気付けよ」
桜川「何すか、ビックリしたー」
河原子「何すかじゃねえよ。便所行って戻って来ないと思ったらお前、何マンガ読んでんだよ」
桜川「いいじゃないすか、別に大して忙しいわけでもないし」
河原子「あのね、言っとくけど、駅員に忙しくない時なんてないからね。いつでも忙しいんだよ駅員は」
桜川「いやいや、全然乗客いないじゃないですかウチの鉄道」
河原子「・・・いないけども、色々やることあんだろ」
桜川「何あるんすか」
河原子「ホームの掃除とか」
桜川「掃除って(笑)それ仕事無いからやる仕事でしょ。やっぱり無いんじゃないです か」
河原子「いいんだよ、駅員なんだからホームにいろよ。何か、切符の買い方とか、何処で乗り換えたらいいのかとか、聞かれんだろ」
桜川「ていうか先輩、今いないじゃないすかホーム。戻ってきてんじゃないすか事務室 に」
河原子「昼休憩だよ。いいだろ、飯くらい食わせろよ」
桜川「え、もうそんな時間?」
河原子「そうだよ。お前どんだけマンガ読んでんだよ」
桜川「うわー、全然気付かなかったー」
河原子「・・・お前さ、今年で幾つだっけ?」
桜川「え?25っす」
河原子「・・・あのさあ、お前、25にもなってさ、(少年ジャンプを指し)こういう、少年マンガを夢中になって読んでんの、オレはどうかと思うよ」
桜川「いやいや、何言ってんすか。少年ジャンプは幾つになっても夢中になりますから ね。ワンピース、ヤバイんすから今」
河原子「知らねえよ」
桜川「え、先輩、もしかしてワンピース読んだことないんすか?」
河原子「いや、読んだことはあるよ、前にな。知らねえっていうのは、今ワンピースがどうなってるのかは知らないっていう・・・」
桜川「(聞かずに遮って)え、前って、どの辺すか?どの辺まで読んだんすか?」
河原子「え?いや、だから・・・確か、空島の辺りまで」
桜川「うわ!(笑)空島って!ホントにめちゃくちゃ前じゃないすか!何年前すかそれ!」
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