さつき、さくら、雨のなか。
VersionB
『さつき、さくら、雨のなか。』VerB

■登場人物
松尾茶月  (まつおさつき・♂・15歳・北国の小藩の藩主)
うめ    (うめ・♀・38歳・傘売り)
太田千畝  (おおたちうね・♂・30歳・茶月の側近)


     プロローグ
     享保6年(1721年)5月。北国の小藩にある小さな庵。庵は激しく燃えている。寝巻き姿のうめが
     やってくる。手には刀。煙に噎びながら叫んでいる。

うめ  これは……千畝!!千畝はいないか!?茶月は、茶月はっ!?

     赤子を抱えた千畝がやってくる。

千畝  はつ様!!

うめ  千畝!!茶月は……。

千畝  かように。亡き殿の忘れ形見、私めが命に代えてもお守り致します。

うめ  しかしこれは……他の者たちは?ツネは?みなは無事なのか?

千畝  それが……人の気配がありませぬ。

うめ  まことか?…そうか、今年は珍しくツネもついてくると申したのは…こういう裏があたっということか。

千畝  まさかこれは……。

うめ  のう千畝、身分などという形ないものに阻まれて己が求めんものが手に入らない。それはそんなに辛いも
    のか?

千畝  はつ様いかがなされたのですか?今はそれよりも……。

うめ  すまぬ。あるいはそなたなら少しはそれも分かるかと思うたのだが。

千畝  水場であればまだ火が回ってないかもしれません、そちらより……はつ様?

     刀を抜くうめ。

うめ  殿の使っていた部屋の畳の下に外に抜け道がある。そこならツネの息のかかった者がおることもないであ
    ろう。茶月を連れてここを離れよ。

千畝  そのような物が?なぜこの五月雨庵に?

うめ  私だけじゃない。殿だって……ツネの思いは気付いていた。やがてこのようなことが起こるかもしれぬと
    いうことも……。さぁ行け!!

千畝  しかしはつ様は……。

うめ  ツネは家臣である以前に私の妹。……妹の苦しみを放っておいてしまったのは姉としての一生の過ち。侘
    びを……いれなくてはならぬ。

     しばらくみつめあううめと千畝。千畝、赤子を抱いたまま走り去る。
     一人になったうめを激しい業火が襲いかかる。それを必死に振り払ううめ。
     しかし炎は次第に強くなる。

うめ  ツネ!!ツネはどこにおる!!話をきくのじゃ!!

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