飛ぶ教室
「飛ぶ教室」      作 結城 翼

      すべて善き猫たちへ。君たちはいつだってほんとうのことを知っている。      
    

    登場人物    
        ナナシの猫・・・・・・・・・・・・・・・
        夏子先生・・・・・・・・・・・・・・・・
        夏緒・・・・・・・・・・・・・・・・・・
        葵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
        朱美・・・・・・・・・・・・・・・・・・
        泡谷・・・・・・・・・・・・・・・・・・
        千面鬼・・・・・・・・・・・・・・・・・
        シャンプー・・・・・・・・・・・・・・・
        リンス・・・・・・・・・・・・・・・・・
        


Ⅰプロローグ

        夏。遥か風の赤道から吹き渡ってきた八月の風が吹く。
        声が微かに重なり合って聞こえる。

声  :どっどどどどうど どどうど どどう、 
    ああまいざくろも吹き飛ばせ 
    すっぱいざくろも吹き飛ばせ
    どっどどどどうど どどうど どどう

        ゆっくりした鼓動音が重なる。一五億回の命の鼓動だ。
        溶明。大小、形状様々な階段が舞台全面にあり、全体として螺旋状になっている。奥に白い大きな樹。帽子をかぶった子供たち        が、階段をゆっくりとあがったり降りたりしている。樹の上にナナシの猫がいる。風に樹が揺れる。ナナシの猫はやがて起きる。        そうして、あなたに語り始める。ひときわ激しい風が吹く。ナナシの猫の帽子が飛ぶ。晴れやかな笑顔。

ナナシ:充分すぎるほどの風だね。そうさ、僕には充分すぎるほどの夏の風だ。僕は誰かって。僕は猫だよ。それもほやほやといっていい新米の    猫だ。名前はない。それもそのはず、僕は死んだばかりだからだ。生きているじゃないかって、そうさ。生まれたばかりだもの。何のこ    とだかわからない?ごめん、ごめん。聞いてくれるかな。僕は人間だった、死ぬ前はね。あの大きな樹が見えるだろう。あの上から飛び    降りたんだ。夕日に向かってね。明日から二学期が始まろうと言う夏の終わりの夕方。とても、赤い夕焼けで、一瞬やめようかななんて    思ったけれど、やっぱりね。こう言うときはかっこよく行きたいじゃない。だから、思い切って飛んだんだ。けれど、飛んだ瞬間、ちら    っと思った。ああ、もう一度ってね。何がもう一度かわからないけれど。気がついた瞬間、僕はこうやって猫になっていた。聞いたこと    ある。人間が思いを残して死ぬとさ、残念ていうんだけど。人間は猫になるんだよね。どうしてかって、わからないよ、僕には。おかし    い?おかしいよね。じぶんだって、しんじられない。・・えっ。これからどうするかって。ちよっと気になってさ。うん。もう一度って、    なんでおもったのか。気になって。・・できたら、もう一度人間に戻りたい気もするけれど。まあ、無理だよね。
夏 緒:無理じゃないさ。
ナナシ:だれだい。
夏 緒:夏緒というよ。新入りだね。
ナナシ:無理じゃないって。
夏 緒:ああ。
ナナシ:君は誰。
夏 緒:君よりちょいと古株。教えてやろうか。
ナナシ:なにを。
夏 緒:いったじゃないか。人間にもう一度なりたいって。
ナナシ:そんなことできるのかい。
夏 緒:ああ、たぶんね。
ナナシ:どうしたらいいの。
夏 緒:夏子先生にきいてごらんよ。
ナナシ:夏子先生?
夏 緒:ああ。
ナナシ:誰?
夏 緒:先生さ。
ナナシ:だから、何の?
夏 緒:八月の夏の国。飛ぶ教室。
ナナシ:飛ぶ教室?
一同 :飛ぶ教室。八月の夏の国。

        夏子先生登場。
        
夏 子:みんな元気だね。結構、結構、じゃ、はじめようか。
夏 緒:起立。 

        子供たち思い思いの場所で起立。
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