あらすじ
ある秋の雨降りしきる夕方、リストラされた若い男が羅生門の上から奇妙な歌声が聞こえてくるのに導かれ、女が死人から髪の毛を引き抜いている光景をのぞき見る。あまりのおぞましさに嫌悪感を抱いた男は、正義感にかられ、女を脅しつけ切ろうとするが、女は、お前様の手はそれほどにきれいなものなのかと反問し、この世で暮らすことについて奇妙な論陣を張って、男を惑わす。やがて男は、女の話に引きずられるまま、男はかつて、自分が一時の気の迷いで、地方からはるばる出てきた男の子をだまして、危うく自分が悪に手を染めることだったことなどを語る。男は、しかし俺はそこから引き返した、お前とは違うと揺れる自分を守ろうとするが、女は果たしてそうだろうかとさらに男の記憶は呼び返す。一時暮らしていた、蛇の干し肉を売る女とのいさかい、結果的に男の子を殺してしまっていたこと、蛇の女の末路、それらが次々に明らかにされる中、やがて男は、どうにも「悪」をなさねば生きてはいけない所へ追いつめられていく。