桃色月に鈴の夢

「桃色月に鈴の夢」
                           作 結城 翼



★登場人物
鈴 ・・・・・
奈津・・・・・
豊吾・・・・・
田鶴・・・・・
藤 ・・・・・
浜路・・・・・
多吉・・・・・
蘭 ・・・・・
お遍路たち・村人たち・・




★プロローグ

        潮騒の音。
        鈴の音が涼やかに響く。
        と、闇の中から女の歌声が聞こえる。

歌声 :お月さま桃色。誰が言うた?海女が言うた。海女の口、引き裂け。

        続いて、鈴の音とともに多数の歌声が聞こえる。

歌声 :お月さま桃色。誰が言うた?海女が言うた。海女の口、引き裂け。

        ひときわ高い潮騒の音。
        静かに幕が開く。
        静まれば見事な桃色月夜。
        舞台中央に大きな金色の珊瑚樹の屏風。背後には巨大な珊瑚樹に桃色の月がかかっている。
        屏風の前に、女が一人座っている。
        鈴を振りながら、お四国参りの一行(登場人物たち)がやってくる。
        女は語り始める。

女  :そこへゆくのはお遍路さんやないかねえ。ちょっと、よっていきなさらんかね。あたしの話を聞いてみとうせ。

        間
        潮騒が聞こえる。

女  :どうですぞね。ほんとにきれいな海ですろう。・・ほら、これを見とうせ。桃色珊瑚いうてねえ、めったにとれん珊瑚ですら。この浦の    あたりでは涙の樹ゆうていわれてます、貧しいもんが精一杯生きよう思うたら、どうしても血の涙を、幾筋も幾筋も海ん中へ流さんとい    かんですろう。そんな涙が大きゅう大きゅう、根ぇ張って、このように輝くんですと。ほんまにきれいですろう。(歌う)お月様、桃色、    誰がいうた海女がいうた。海女の口引き裂け。(歌い終わり姿勢を正して)聞いてくれますろうか。いまから話しますのは、口、引き裂    かれた海女のお話でございます。ありゃあ、ひどい天候不順と不漁が続き、作物もとれん、漁もさっぱりで、みなほとほと困りいってお    りました年のこと・・。

Ⅰ鈴 

        田鶴、藤たち出てくる。
        田鶴、藤たち、海岸で貝や昆布を拾っている。藤は片足が不自由そうだ。
        田鶴、海岸の様子を見ている。

田鶴 :しけもだいぶ収まったみたいやねえ。藤ちゃん、昆布かなんか落ちちゃあせん?

        ちょっと離れたところで探しまくっていた藤。当てが外れた風で。

藤  :なんちゃあないで。あるとおもうたに。いよいよ、お腹減ったねえ。
田鶴 :うん。
        女すーっと、子供たちに近寄っていく。
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