バベル
登場人物
 赤眼/ノイズ/
 少女/冬寂/誰かの声A/B
 イバラキ/誰かの声B/A/C



○ニュース画面
幾つモノ出来事のニュースがノイズのようにただ流れていく。

A     2011年の2月9日火曜日のニュースワールドです。今日のトップニュースです。MITの研究グループが、デジタル情報を脳内に書き留めるシステムの確立に成功。名前はバベルシステムと命名された模様で…
ノイズ   電子頭脳という名の幻想は、零と壱に彩られた果てしなきパンドラの箱に残された唯一の神聖化されない武器であり、夢であり、悠久を約束された進化系の一つである
B     次のニュースです、バベルシステムを使った情報専門の運輸業者が登場しました…
C     記憶屋と言う呼び名が、ネットを中心に広がっているようです。専門家の…
A     2036年の6月25日金曜日のニュースワールドです。驚くべき事実です、バベルシステムを使用すると遺伝子レベルでの記憶障害が起こる事が発見されました…
B     次のニュースは、国際バベル法が制定されました。それに伴い我が国でも法の整備が急がれます。しかし、現状はようやく…
ノイズ   今や、電子計算機の進化スピードは、遥かムーアの法則を無視し、ノームやゴブリンよりも小さい小人の領域に達し始めた
C     2042年の今日現在、親がバベルシステムを使用した為に記憶障害を持つ幼児の数は、28億人を超えています。この状況を政府はどう対処するのか。そして、この世界はどうしていくべきなのか、今日は、専門家の先生を交えてお伝えしていきます。では…
ノイズ   小人と言うべきよりも妖精に近くなったそれは、我々のポッケの中へ。曰く遠方の相手との会話を可能とし、曰く電子化された金銭を持ち運べるようした、曰く情報を多く搾取できるようになった、曰く音楽をより生活の近くにし、曰く数万キロ離れた相手との手紙を一両日中に行えるようになった。もはや、電子妖精とでも呼ぶべきか…
A     ようやく法律化です。厚生省が提案していた先天性バベル記憶障害者保護法が両議院を通過しました。しかしここ最近の政変の為に、所得低額者は保護されない記述のまま、両議院を通過した模様です…
B     あれから、二十数年経ちました。しかし、何も変わっていません。バベルシステムを使った情報の運び屋、記憶屋になる若者は後を絶ちません。何故でしょうか?記憶屋は違法で…

   突然、停止する。

○少女の部屋
少女がテレビリモコンを持って、電源をオフにしている。
少女が自宅のポストに投函されているのに気がつく。

少女    あっ、手紙

少女が嬉しそうに封筒を開けて、中を見る。
札束が数個出てくる。しかし、少女は眼もくれず手紙を見つける。そして、読み始める。

少女    お元気ですか?私は元気です。いつも通り生活費を中に同封しておきます。ここ数年、毎月手紙とともに仕送りをしてきましたが、恥ずかしながら未だに手紙に何を書いたらいいかを迷います。いつも迷っています。私と貴女は、血のつながった本当の姉妹で、貴女は私の実の妹なのだから、電話してしまえば簡単なのでしょうが、貴女の病がやはり気になります。今時流行りの戸籍売買での家族なんかじゃなくて本当の家族の貴女が、もしも貴女が私の名前を忘れてしまっていないか、私の顔を忘れてしまっていないか、私の声すら忘れてしまっているのではないか、私の存在そのものを忘れてしまっているのではないかと、たまらなくなって、いつも…、いつもいつも、最後の番号を押す指が止まってしまいます。メールで構わないと思っていても、いざ送ろうとすると最後の送信を押す指は、どこか書いた文は変じゃないかと文を目で追いかけ始めて、見れば見るほど読み直せば読み直すほど、どの文字も同じで、同じすぎて、書いた私が本当にその文字を選んで書いたものなのか、それともその言葉にその文字にその記号に私が書かされたのか、どちらか判らなくなって、私の輪郭線が少しづつ消え去って私が私でなくなりそうで、貴女に書いたのがこの私だと解るどうか、不安に包まれます。いえ、恐怖に近い孤独に襲われます。そうして、やはり指は止まったまま動けなくなります。それでも月に一度だけ、電話もメール出来なかった指は、止まっていた指は、散らかった机の上で便箋をようやくといった感じで探り始め、なんとか動き出した手は、いつの間にか握ったペンを走らせて文章を綴り出しています。そして、貴女の住む場所を書いて、貴女の名前を綴ります。書く内容を頭に思い浮かべて、どう書くべきかを悩んで、書きたかった文字や内容が石のように重く崖のように険しくなって苦しんで、綴ろうとします。それでも、言葉足らずで腕が止まります。腕がとまると嫌な出来事を思い出して、嫌な想像をしてしまいます。もしかしたら、この手紙がつく頃には貴女は、もう全て忘れてしまっていて何処かの特別施設に入れられているかもしれない。この手紙がつく頃には、もう私の事を忘れて独りで生きているのかもしれない。そんな悪い想像をしてしまう姉を許してください。もしも、忘れてしまっていたなら、思い出して下さい。貴女には姉がいた事を、貴女には姉である私がいるという事を。私は貴女を証明する唯一である事を、貴女は私を生かす理由である事を。発作が起きたら、また思い出してください。貴女の姉より。追伸、久々に帰ろうと思います。また昔話をしようと思います。それでは

少女は読み終わると嬉しそうに手紙を大事にポッケに入れる。

少女    姉さんが帰って来る…。姉さんが、…帰ってくる!
   
○ある部屋
記憶屋、赤眼が椅子に座って気を失っている。

赤眼    …ん

赤眼が頭を抱えながら、ふらふらと立ち上がる。

赤眼    通常記憶出力での過度の負荷がかかったのか…?…!畜生!ノイズが混じってる!

頭の痛みが、襲ってかがみ込む。独り言をブツブツと吐いている。

赤眼    ノイズが入った為の最善処置?別データの保護?何の話だ?データ保持の為、BSS(バベルシェルシステム)発動?ふざけるな!人格及び入力データの圧縮が開始され…

赤眼がその場に倒れる。ゆっくり起き上がると辺りを見渡す。
時おり頭痛で、頭を抱える。

赤眼    ここは、…何処だ?

赤眼が立ち上がる。その存在は、本人にも現実感が感じられないほど、幽玄。

赤眼    俺は誰だ…?
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