贋作・銀河鉄道の夜
夢を見ているときに、「これは夢だ」と気付くと、その夢を自分の思うとおりに出来るらしい。

『贋作・銀河鉄道の夜』

  人物
  ジョバンニ
  カンパネルラ
  教師
  セロのような低い声の主



  既に舞台にはプラネタリウムの側に座った教師が居る。
  それは列車の外であり、少し離れた空間である。
  ジョバンニが、駆けてくる。カンパネルラは既に列車の中に居て、座っている。

セロのような低い声 銀河ステーション、銀河ステーション……

  ジョバンニが橋を渡って乗ってくるのを、カンパネルラが迎える。
  列車の四人席にジョバンニとカンパネルラが向かい合って座る。
 
カンパネルラ みんなはね、ずいぶん走ったのだけれど、遅れてしまったね。この列車に乗れたのは、僕と君だけだね。

  列車はもう走っていて、ジョバンニは、後ろを振り返る。

ジョバンニ それじゃあ、どこかで待っていようか。
カンパネルラ いいんだよ。みんなもう、お父さんが迎えに来て、帰ったろう。

  列車は走っている。

教師 では皆さんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていた、このぼんやりと白いものが本当は何かご承知ですか

  プラネタリウムの側に座った教師が、そう問う。
  ジョバンニとカンパネルラは顔を見合わせ、微笑みあう。

教師 このぼんやりと白い銀河を大きな望遠鏡で見ますと、もう、たくさんの小さな星に見えるのです。ですからもしこの天の川が本当に川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川の底の砂や砂利の粒にあたるわけです。

カンパネルラ ほら! 見てよ!

  ちょうど電車は天の川の上を通過する。二人は身を乗り出して。

カンパネルラ 天の川だ!
ジョバンニ ずいぶん透き通った川だね。
カンパネルラ そうだよ、川底の石や砂利や砂が、こんなにはっきり見えるんだもの。
ジョバンニ この星一つ一つが、川底の砂利なんだね。
カンパネルラ そうだ。つまり、僕らが住んでる地球も、太陽だって、川の水の中にあるのさ。
ジョバンニ でも僕たちは息を出来るよ?
カンパネルラ それじゃあ地球は魚さ。水の中で呼吸を出来る、魚なんだ。そうして、太陽系の他の惑星は地球と言う魚が暮らしている水草なんだ。
ジョバンニ それなら川の中でも息が出来るね!
カンパネルラ でも僕たち一人ひとりは魚じゃない。その魚に暮らしている、やっぱりただの人間さ。
ジョバンニ ……君は人間である事が、何か嫌なのかい?
カンパネルラ (しばらく黙って) そんなふうに聞こえたかな。

  カンパネルラが黙るので、ジョバンニも黙る。

カンパネルラ 僕は水に入るとき、いつも思うんだ。自分が魚だったら好いなって。
ジョバンニ ……それじゃあ、人間を辞めて魚になる?
カンパネルラ 僕はやっぱりただの人間だから、本当の魚の気持ちは何一つだってわからない。魚だって、自分が人間だったら好いなって思うことあるかもしれない。
ジョバンニ うん、
カンパネルラ いったいどんなことが魚のほんとうの幸せなのかも、僕はわからない。
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