タマ
   タマ   


CAST

タマ


  ―オープニング―

  幕が上がると舞台中央でタマが眠っている。
  ゆっくりと目を覚まして起き上がると大きなあくびと伸びをする。
  タマが観客に気付く。

タマ あ、これはこれは、失礼しました。あまりに天気が良かったので縁側でボー
   っとしてたんです。そしたらいつの間にか眠ってしまってたようですね。お
   っと、申し遅れました。わたくし、『タマ』と申します。まったく、平成の
   この世の中に『タマ』は無いでしょう、『タマ』は。私の周りを見て見ます
   と、カトリーヌだの、エリザベスだの、アレクサンドロスだの。そうそう、
   一ヶ月ほど前にお隣の山田さんの家にやってきたコモドオオトカゲでさえ、
   マルクス=アウレリウス=アントニヌス=山田、なんて華やかな名前をもら
   っているではありませんか。そんなわけですから私の名前なんて聞いた人は
   皆珍しい、珍しいなんていうんですよ。それならまだ『じゅげむじゅげむご
   こうのすりきれ、かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつ、うんらいまつふう
   らいまつ、くうねるところにすむところ、やぶらこうじのぶらこうじ、ぱい
   ぽぱいぽぱいぽのしゅうりんがん、しゅうりんがんのぐうりんだい、ぐうり
   んだいのぽんぽこぴーの、ぽんぽこなーの、ちょうきゅうめいの、ちょうす
   け』の方がずっとましですよ。はぁ、はぁ。(息切れ気味)適当に名前をつ
   けられた上に、私がこの家にやってきて、かまってもらえたのも最初だけで
   したよ。最近じゃあ食事までもいい加減になってきました。まったく、私の
   存在はいったい何なのでしょうか。おっと、愚痴を言ってても仕方ありませ
   んね。さて、あいさつが長くなりましたが、これからお話しするのはそんな
   一家と私の物語です。では、どうぞ。

  暗転。

  ―一―

  春。
  小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
  舞台下手にタマが歩いて出て来る。
  途中であくび。

タマ あぁ、いい朝ですねぇ。この時間が一番好きなんですよね、暑くもなく、寒
   くもなく。遠くの景色もほら、だんだん白くなっていく山の際の辺りが少し
   明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいてるのなんて本当に風情がある
   んですよねぇ。春は曙。春眠暁を覚えず。ああ、いとおかし。

  父、タマを呼ぶ。

タマ はーい!何ですか。私がせっかく感傷に浸ってたんですから、邪魔しないで
   くださいよ。あ、朝ごはんですか。でも、あれですよね。朝ごはんっていっ
   てもどうせまた……ほら、やっぱり。何でですか?何で毎日毎日朝昼夜、食
   事が全て同じなんですか!?いえ、おいしければまだ許せますよ。でもこれ、
   何かパサパサしてますし、塩味がやけに強くて、あまりおいしくないって言
   うかのどが渇くんですよね。大体ネーミングがいまいちなんですよ。何です
   か『おいしい缶詰』って!シンプル・イズ・ザ・ベストにもほどがあるでし
   ょう!シンプルって言うかもはや適当ですよね、これ。それにおいしいって、
   それ一体誰がどんな基準をもってしておいしいって言ったのか分からないじ
   ゃないですか。私たちの味覚を勘違いしてるんじゃないですかねぇ。人間が
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