折り紙気分
亀ヴァージョン
折り紙気分  亀ヴァージョン 作 田辺 剛

[登場人物]藤野/持田/片瀬

とある中学校の教室。放課後。片瀬が背を向けて椅子に座っている。側には藤野がなにやら考え込んでいる様子でいる。

藤野 井上君な。やっぱり楽しいこともいろいろとあるんちゃうの? 大変なことも多いけど「楽あれば苦あり」って言うやん。あ、「苦あれば楽あり」。あれほら、文化祭。来月な、うちのクラス、演劇するんやって。演劇。どう、演劇。やってみたくない? スポットライトとかバーンって。こう舞台に立って、一万人くらい……一万はいいひんか……五、六十人くらい? おんねん。で、「ロミオとジュリエット」な。あ、ロミオとかどうよ? ええやん。キスとかできんで。どう、キス。めったにできひんし、ちょっとチャンスちゃうの、これ。

藤野は片瀬を井上に見立てて話しかけているのだった。持田が折り紙を持って入ってくる。

藤野 こうさ……「チュー、チュー、ブチュ」って行っとこうさ。
持田 え?
藤野 (片瀬に)はじめはな、うん、はじめは確かに恥ずかしいかもしれんけど……
持田 なんなん?
藤野 「ロミオとジュリエット」
持田 は?
藤野 (片瀬に)誰としたい? ちょっとこっそり言ってえや。わたしなんとかするし。なんか青春って感じやん。

藤野は片瀬に耳を寄せる。しかし片瀬は反応しない。

藤野 なんか言え!(と頭をたたく)
片瀬 いたあっ。
持田 ちょっと、ちょっと。
藤野 いや、だってなんか言うやん、ふつう。
持田 そんなん無理やって。
藤野 なんで?
片瀬 いきなり「誰とキスしたい?」って言うか?
藤野 聞きたいやん。
片瀬 それはお前がやろ。
藤野 え、おるやろ。好きな人。
片瀬 いいひんやろ。
藤野 おるって。(持田に)なあ。
持田 いや、だって学校来てないし。
藤野 来てないなりにさ。
片瀬 いたとしても言うか、普通の会話やん、それは。
藤野 え?
片瀬 いや、だから、井上君はこう……(耳をふさいで)引きこもってるわけやろ。
藤野 聞こえてないん?
片瀬 いや、聞こえてるけどな。
藤野 聞こえてんの?
片瀬 うん。
藤野 だったら、言えよ。
持田 そういうことがすっと言えるんやったら、引きこもってないって。
藤野 ふーん。
片瀬 あと、もうちょっと柔らかく。
藤野 めちゃくちゃ丁寧やん、今の。君付けやで、君付け。きしょいねん。「井上君」とか。
片瀬 強引に引っ張ってもさ。
藤野 じゃあ、自分、やってみいさ。

藤野が座る。

藤野 (折り紙に気づいて)なにそれ。
持田 あ、ちょっと、また……ね。
藤野 え、鶴折んの?
持田 うん。
片瀬 おととい、やったやん。
持田 そうなんやけど。
藤野 もうええやろ。鶴ばっかり。
持田 聞いたんやけどな……昨日、生徒会の人たちが病院に持って行ったんやって。そしたら、なんか違うらしいって。
片瀬 なにが?
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