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人騒がせなハイビスカス

『人騒がせなハイビスカス』

作　大沢ケイト
2006.9.25初出

◆登場人物
　　　　　　　サエコ（３０）　　　　　　グラフィックデザイナー。ショウタロウの妻。オフィス・ショウタロウの元社員。
　　　　　　　ショウタロウ（４０）　　『オフィス・ショウタロウ』デザイナー兼社長。サエコの夫。

◇場所　　　サエコとショウタロウの暮らすマンションの一室。

　　　　　　　平日の朝、9時。　
　　　　　　　居間でサエコが電話をしながら荷造りをしている。

サエコ　　マツタケの佃煮？　いらないわよ。いや遠慮じゃなくっていらないって。いらない……いらないっつってんの。
　　　　　　はあ？　田舎から12袋も送ってきたあ？知らないわよ。あんた喧嘩売ってんの？　
　　　　　　佃煮とか漬物とかあたしが苦手なの知ってるでしょ。洋食ばっかり食べてたら太るわよって大きなお世話だっつってんの。

　　　　　　　サエコ、箱に入用なものをつめていく。

サエコ　　毎日一袋食べたら？　そしたら１２日で無くなるでしょ？　飽きる？　知らないわよ。
　　　　　　とにかくね、あたし忙しいんだから、ちょっと聞いてるの？　なんでって明日引越しだもん。
　　　　　　……大きな声で叫ばないでよ。そう、明日よ、明日。
　　　　　　聞いてないよって言ったわよ。言ったって。言った……絶対言いました。
　　　　　　……だからちゃんと言ったって言ってるの。言わないわけないでしょう、
　　　　　　親友のあんたに。ちょっと待って。

　　　　　　　サエコ、ダンボールにガムテープで蓋をする。

サエコ　　誰……あいつ？　知らない。うん。全然会わないもん。……逃げ回ってるのよ。あたしと顔合わせたくないんじゃない。
　　　　　　知らない。泣きそうなんじゃないの。
　　　　　　……冗談よ。あたしが出てく位で泣きゃしないでしょ。せいせいしてるんじゃない。

サエコ　　うん……そうねえ、そんなこともあったよねえ、うん。ほんと今となっては籍入れなくてよかったって言うかねえ、皮肉よねえ。
　　　　　　泣いたよねえ、ユカリの豊かな胸で。あんたにも色々迷惑かけて……ほんと、皆に迷惑かけて、
　　　　　　結局これだもん。申し訳ないなあ、皆に。

サエコ　　元気だよ。私もふっきれちゃったみたい。淋しいけど……でも、もういいの。
　　　　　　しめっぽくなっちゃったね。切るわ。うん。落ち着いたらまた、電話する。うん。ありがと。うん。うん。うん。
　　　　　　うん、それじゃ……うん、それ……うん、いや、いらないから。ほんっとにマツタケはいらないから。
　　　　　　うん、それじゃ、それじゃ、それじゃあ！

　　　　　　　サエコ、電話を切る。

サエコ　　あー。やっと切れた。

　　　　　　　サエコ、ショウタロウがソファに寝転がっているのに気づく。

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