海月出づる時

    〈登場人物〉

       池上 美香 (二六歳・主婦・文恵の姉)
       石野 文恵 (二三歳・フリーター)
       猪俣 さゆり (二九歳・OL・文恵の先輩)
       吉田 優子 (二六歳・フリーター・文恵の先輩)





       平成二七年八月下旬。
       東京郊外。夕方。
       古びた日本家屋の和室。
       中央に座卓があり、周囲に座布団。
       その一つに、美香がジャージ姿で座り、コップ酒
       を飲んでいる。

美香   ♪一人酒場で飲む酒は 別れ涙の味がする

       美香、酒を飲む。

美香   ♪お酒はぬるめの 燗がいい 肴はあぶった イカでいい

       美香、近くに置いてあったスーパーの袋をあさる。

美香   あぶったイカ‥‥じゃなくて‥‥イカの珍味‥‥か。ま、いっか。

       美香、珍味の袋を空けようとする。

美香   (袋を持ち上げ)イカ‥‥。ま、いいか。‥‥イカ、か。ま、いいか。‥‥アハハハハ。

       美香、一人で笑う。しつこく笑う。

美香   ‥‥おっかしいねぇ。

       沈黙。

       美香、酒をコップにつぐ。

美香   ♪沖のカモメに深酒させてヨ いとしあのコと 朝寝するダンチョネ

       美香、イカをかじりながら、酒を飲む。

美香   ♪もう 終わりだね 君が小さく見える 僕は思わず君を抱きしめたくなる

       美香、イカを食いちぎる。

美香   ‥‥なんて、思わねぇーつーの。

美香   ♪(演歌調で大声で)さよなら〜 さよなら〜 さよなら〜 もうすぐ死にそな暑い夏〜

       美香、歌いながら、バタリと大の字に倒れる。
       しばしの間。
       風鈴の音。

       そでから声がする。

文恵の声   あれ、開いてる。‥‥おっかしいなあ。
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