あらすじ
熱海の町で暮らす老夫婦、幸子と仁。
認知症を抱える幸子は、「女がいる」「水の音がする」といった幻の中で日々を生きている。
夫の仁は、商店街の人々とのつながりの中で、幸子の日常を支え続ける。
ある日ふたりは、病院への定期診察という名の「デート」に出かける。
診察室で語られる、幻が現れる理由。
医師の言葉を通して仁は、幸子にとって自分が“道標”であることに気づく。
──幻と現実、記憶と今。
正しさよりも、「隣にいようとすること」が、ふたりの絆を育んでいく。
唐揚げの取り合い、プリンを巡る小さな事件、それらを「ま、いいか」と笑い飛ばしながら重ねていく日々。
少女のような幸子の笑顔に、ふたりのすべてが込められていた。
『年を重ねること』が、こんなにも愛おしいと知る、静かで、あたたかい、人生の午後の物語。
すこし不思議で、すこし切なく、そしてやさしい喜劇です。
観終わったあと、観客がふっと、誰かにやさしくなれること。
そして、冷蔵庫のプリンを見て、あのふたりを思い出してくれること──それが、作者としての何よりの喜びです。
この物語が、観た人すべての胸に、小さな灯をともせますように。