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日曜日になったら

登場人物

中島昌利(なかじま　まさとし)　　　Ｖチューバー
室谷(むろたに)　　　中島のアシスタント
藤牧（ふじまき）　　　中島の支援者であり友人
凪原墨子（なぎはら　すみこ）　　　故人。五年前の詐欺事件に関与した一人(セリフの中でのみ登場)
伊馬咲篤(いまさき　あつし)　　　若手俳優（セリフの中でのみ登場）
末永　　　伊馬咲のマネージャー（セリフの中でのみ登場）

　　　所
　マンションの一室。マンションは、急坂の斜面の閑静な住宅街のなかにひっそり立つ赤茶色の建物。部屋の窓からは、丘の下の街並みが眺めえる。室内の調度品は必要最低限。作業机、二つの棚、無骨なベッド、空気清浄機が一台のみ。卓上にはノートパソコンとマイク、卓上ゲーム機、ディスプレイが置かれている。いたって質素な部屋。

　　　時
　　二千二十四年五月中旬。

　　　第一幕
中島がゲーム機のコントローラーを持ちながら、マイクの前に座っている。室谷はその傍でイヤホンをしながらパソコンを操作している。

中島：　（わざとらしい気取った声で）それではまた次回、チャオ！
室谷：　（パソコンに向かいながら）はい、お疲れ。
中島：　お疲れ。じゃあ、すまないけれど、編集頼むわ。
室谷：　へいへい。お安いご用だよ。
中島：　（スマホを見ながら）ようやっと調子づいてきたなあ。見たか？　先々週の動画。
室谷：　ああ、視聴者数が九万人に達していたな。地道にやってきた甲斐があったってもんよ。
中島：　十万人まであと少し。人気配信者の夢ももう間近だ。
室谷：　ふふん、その残り一万人が、一番越えがたい壁だ。まだまだ気は置けないぜ。
中島：　なあに。気負う必要はないよ。これまで通りに投稿してゆくだけさ。
室谷：　おいおい、それじゃあ視聴者数は減っていくぜ。今どきは、みんな飽きやすいからな。ファングッズを作ったり、オンラインサロンを開いたり、他のＶチューバーとコラボしたり、いろいろ風呂敷を広げなくちゃ。
中島：　でも、ここで視聴者の目の色を窺って、下手に方向転換したり風呂敷を広げたりすれば、これまでのファンが離れていきかねないだろう？　いいんだよ。俺たちは俺たちのままで。
室谷：　それより、そんなゆっくりしていて、いいのか？　この後、藤牧さんと会うのだろう？
中島：　ああ、大丈夫。もうすぐ彼女がここに迎えに来てくれるから。
室谷：　今日はどこへ？
中島：　駅ビルのフレンチレストランだよ。
室谷：　ほおー、それは素敵だね。
中島：　お前も来ればいいじゃないか。
室谷：　いやいや、馬に蹴られるような野暮はしたくないのでね。
中島：　だから、藤牧さんとはそういうのじゃないって。あの人は、初期から俺を支援してくれていた恩人なんだ。今晩の食事会は、彼女の誕生日のお祝いと、これまで支援してくれたことへのお礼でもあるんだよ。
室谷：　ふーん。なら、なおさら俺は行くべきじゃないな。俺は所詮、お前に雇われているだけの身だからな。それに、俺は半年前に雇われたばかりで、藤牧さんとはろくに喋ったこともないし。
（インターフォンの呼び出し音が鳴る）
中島：　藤牧さんだ。（インターフォンに向かい）はい、今、開けますね。（解錠ボタンを押し、インターフォンの電源を切る）
室谷：　上がってくるの？
中島：　ああ、予約の時間までまだ少し時間があるんだ。いい機会だから、お前も挨拶くらいしろよ。（部屋のインターフォンが鳴り響く）あ、来たみたいだ。はーい。（中島は下手に歩いてゆく）
室谷：　（傍白）ちっ、お節介しやがって。苦手なんだよな、あの人。資産家だか不動産屋だか知らないが、金持ちって感じがぷんぷんして、鼻持ちならないんだ。
（下手から中島がゆっくりと後ずさりして出て来る）
中島：　（すこし震える声で）何の冗談です？　藤牧さん。
（下手から藤牧登場。手にはリボルバーが握られている）
藤牧：　中島さん。殺して差し上げますわ！

　　　第二幕
第一幕の最後の構図のまま。藤牧はリボルバーの銃口を中島に向けている。中島はひきつった顔で立ち尽くしている。その二人をぼんやり見る室谷。

藤牧：　やっとこの日が来た。この日をどんなに待ちわびたかしら？
中島：　じょ、冗談はやめてください。びっくりするじゃあありませんか。
室谷：　（傍白）あの二人は何を遊んでいるのだろう？
藤牧：　冗談？　あなた、わたくしが冗談を言っているように見えて？
中島：　冗談ではなくて何なのです？　その拳銃、贋物の玩具なのでしょう？
藤牧：　さあ、玩具かどうか、あなたの体でお試しになる？
室谷：　（傍白）こりゃ驚いた。見たところ、あれは本物の拳銃だ。
中島：　よしてくださいよ、もう。第一、どうして俺が藤牧さんに殺されなくちゃいけないんです？
藤牧：　ここに来てしらを切るおつもり？　憎らしい！　あなたはご自分がひとに恨まれて当然の身であることを、すっかり忘れてしまわれたのかしら？

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