握り拳で10000回お前を殴る
握り拳で10000回お前を殴る           荒川 颯音
    

【登場人物】
A  ずるくてかわいい女。
B  臆病でやさしい男。



四月。ある日の正午すぎ、ソファー一台で、コーヒーを飲んだり本を読んだり、スマホを見たりと、互いに別々の行動をして過ごしている。2人の前にはローテーブルがある。

しばらくすると、Aが話し始める。


A  あのさ
B  うん
A  ゆびきりげんまんってあるじゃん?
B  ん?なんて?
A  だから、あるじゃん、ゆびきりげんまん(小指を出す)。
ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった(歌い ながら)ってやつ
B  あぁ、うん
A  やったことある?
B  ある
A  ふーん
B  というか、ない人の方が珍しくない?
A  たしかに
B  ちっちゃい頃よくやったなぁ
A  君が?
B  うん
A  これを(約束の仕草をする)?
B  これを(同じように)
A  そんな時代もあったのか
B   あるに決まってるでしょ
A   んふふ。そっか
B   で?
A   ……あれ、なんだっけ?
B   ゆびきりげんまんの話
A   あぁ、そうだったね
B   うん
A   あの「げんまん」ってさ、何か知ってる?
B   知らない
A   でしょ
B   考えたこともなかった
A   だよねだよね。私もそうだったの。それで、昨日か一昨日かな? 気に
なって調べてみたわけ
B   そしたら?
A   聞きたい?
B   自分から話振っといてなに勿体ぶってんの
A   教えてあげないかもよ
B   なにそれ
A   そんなに聞きたいのか。
B    ……。
A   仕方ないなぁ
B   はいはい、で?
A   げんまんって、「拳」に一十百千万の「万」で「拳万」らしいのさ。
B   つまり?
A   ……握り拳で10000回殴る、ってことらしいよ
B   まじか
A   まじ
B   じゃあ約束破ったら10000回殴られて、針千本飲まされる、ってこと?
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