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追記
(公演パンフレットに書いたメッセージ)
事実は存在しない 解釈だけが存在する
昔々、第三舞台という人気劇団がありまして、そこの芝居にこの言葉が何度も登場していて、「鴻上尚史(主宰)はよっぽど好きなんだなあ」と思っていました。でも、当時、この言葉の意味はきちんと理解していませんでした。ニーチェの言葉だというのは知ってましたが、恥ずかしながら「いかにも哲学者が使いそうな難しい言葉」という認識でした。
しかし、最近、この言葉に実感として思い当たることがしばしば出て来ました。
例えば、チラシにも書いたことですが、認知症にレビー小体型認知症というのがあって、これは「幻視」が特徴なんだそうです。老人が、「さっきあそこに男の人がいた」なんて言い張って家族を困らせたりするんだそうですが、これについてテレビで実験をやってて、ソファの隣にギターが置いてあったのをチラッと見て「人がいた」と誤認識するんだそうです。まあ、言わば「脳のバグ」なわけですが、これを「年寄りだから」とばかりも言ってられないんじゃないかな?と思いました。
というのは、我々の目には常に無数の視覚情報が飛び込んで来るわけで、それを全てきちんと認識するのは不可能だし、それをやろうとしたらおそらく脳がパンクしてしまいます。だから、「適当に」必要と思われる情報だけを脳が選択して、それをそれらしく都合よく解釈して「これが世界だ」と認識するわけです。となると、我々が見ているのは本当に事実や現実なのか?という疑問が生じます。ということで、先の「ギター=人」と似たようなことを誰もが結構やってるんじゃないかな?と思った次第でして。
そんなことを思うようになったのは、知り合いに色盲の人がいて、色盲の人というのは、普通の人と見えてる色が違うんですね。でも、考えてみると、「本当にみんな同じ色を見ているのか?」という問題もありまして、例えば、大型家電店に行くと、テレビがいっぱい並んでて、同じ番組を映してたりしますが、どれも微妙に色合いが違うでしょ? あんな風なズレは必ずあるんだと思うんです。それが大幅なズレだと「色盲だ」「幻視だ」とか言われちゃうだけなんじゃないか?と思う今日この頃です。
歴史事実なんかもそうですよね。つい数十年前の戦争体験なんかで、同じ場所にいた人でも、見てたものが違ったり、感じたことがかなり違ったりする。でも、体験した人は「オレはこの目で確かに見たんだ」「これが戦争なんだ」と言ったりする。
「事実は存在しない」のかどうかはわかりませんが、たぶんそれはどうでもいいことで、我々にとって「事実」とは、「自分が事実として認識していること」でしかあり得ない。となると、相当にバイアスのかかった「事実」や「世界」が70億種類存在してるわけで、これはなかなか大変です。考えてたら、ほんと寝られなくなっちゃう。
ジョン・レノン
以前、とあるうちの劇団員に「あんたの書く芝居は、ジョン・レノンの話ばっかしやな」と言われました。言われてみれば、確かにそうです。まあ、好きなんだから仕方ない。ということで、今回の芝居は開き直って、やたらとジョン・レノンを登場させてみました。すみません。
で、今回のタイトルの「You know my name」というのは、やっぱりジョン・レノンが作った曲でして、ビートルズマニアには有名ですが、まあ、ほとんどの人はご存じないでしょう。ビートルズには何曲か「ゴミ曲」としか言えない変な曲がありますが、この曲はその代表の1つだと思います。
聞いた話によれば、ジョンがポール・マッカートニーの家に行った時に、待たされて、ひまつぶしに置いてあった電話帳をパラパラと眺めていたら、「You know my name. Look up the number.」という広告があった。「うちの会社の名前はご存じですよね?電話番号はこちら」という「イトーに行くならハトヤ。電話はヨ・イ・フ・ロ」(わかる人だけわかって)並のしょーもない宣伝だったのですが、変人のジョンはこれが痛く気に入って、この広告のコピーだけで曲を作ってしまったのだそうです。
それでおもしろいのは、この曲が、ビートルズの代表曲「レット・イット・ビー」のB面だったということ。(若い人は「B面?」とお思いでしょうが、ググってみて下さい)このシングルを買った人は一杯いたでしょうが、B面を聴いて「何じゃこれ?」と面食らったでしょうね。たぶん最後まで聴かなかっただろうし、二度と聴くこともなかったでしょう。その光景を想像しただけでも楽しくなります。いかにもビートルズらしいいたずらエピソードです。
ということで、お楽しみ下さい。