黒猫クロのピクニック
 黒猫のクロは小さな島の、小さな家に住んでいる小さな男の子、ゆうくんの飼い猫です。クロはゆうくんと、ゆうくんのお母さんとお父さんと一緒に住んでいます。
 クロのお気に入りの場所は南側にある窓辺。晴れている日はお気に入りの場所で日向ぼっこをして過ごします。

トントントン。

クロがいつものように日向ぼっこをしていると、外から窓を叩いてくる者がいます。三毛猫のミケです。
「やあ、ミケ。おはよう」
「おはようじゃないよ。もうお昼、こんにちはの時間だよ」
 ミケはクロのお友達で、クロが日向ぼっこをしていると時々こうしてやってきます。
「相変わらずのんびり屋さんだな。外に出て一緒に遊ぼうよ」
「うーん……」
 クロはミケと違って、外に出ようとはしません。クロは少し臆病で、外の世界になかなか出ようとしません。
「ま、無理にとは言わないけどな」
 そういうと、ミケはここに来るまでに起こった出来事をクロに話しはじめました。クロはうんうんと、ミケの話に耳を傾けます。

「ねえ、お母さん。ピクニックって何するの? 」
 その日の夜、お皿を洗っているお母さんにゆうくんは聞きます。どうやら明日、家族みんなでお出かけをするみたいです。ピクニック?と思ったクロはテーブルの下にもぐりこみ、お母さんとゆうくんの話を聞きます。
「ピクニックはね、お外でお弁当を食べたり、遊んだりするのよ」
「じゃあ明日はお弁当? 」
「そうよ。お父さんと一緒に頑張っちゃうから、楽しみにしていてね」
 その言葉にゆうくんは大喜びです。
 ピクニック……クロはピクニックという言葉が気になりました。お母さんが言うにはお外でご飯を食べる。クロはお外に出たことはありませんが、想像しただけでもそれはとても気持ちよさそうです。
「じゃあ明日、ちゃんと起きられるように、そろそろ寝なきゃね」
 お母さんに言われ、ゆうくんははーいと返事をして、いつもよりもうきうきで子ども部屋へと向かいました。

「クロ、行ってくるね」
次の日の朝、ゆうくんと、そしてお父さんとお母さんはピクニックへと出掛けて行きました。
「ピクニックか……僕もやってみたいな」
 1匹だけになったクロはそんなふうに思いました。
「やってみようかな……ピクニック」
 そういうとクロはピクニックへ行く準備を始めました。
 ピクニックではお外でお弁当を食べる、お母さんはそう言っていました。クロはキッチンへ向かい、お弁当を探してみることにしました。
 冷蔵庫を開けましたが、クロが食べられそうなものはありません。流し台の扉を開けてみると、クロがいつも食べているキャットフードの袋がありましたが……せっかくのピクニック、もっと特別な食べ物がいいです。
「あ……」
 反対側の扉を開き、クロはあるものを見つけました。大好物のツナ缶です。クロはお弁当はこれにしよう!と決めました。特別なときにしか食べられないツナ缶。今日は初めてピクニックに行く特別な日だし、そのまま持って行けるのでお弁当にぴったりです。
 クロはツナ缶を、お気に入りのお魚柄の風呂敷に包み、背中に背負いました。これでピクニックに行く準備は万端です。
 クロはいつも日向ぼっこをしている窓辺に来ました。鍵を解除して、窓を開けます。青い空には白い雲と、お日様が元気に輝いています。
 はじめの一歩。クロは外に前足を踏み出しました。暖かくて穏やかな風が、クロの耳のあたりを撫でていきます。空気を吸い込んでみました。おうちの中とは違う、澄んだ空気が体中を巡ります。テレビから流れてくる旅番組で、空気が美味しいという言葉をよく聞くけれど、クロはようやく、その言葉の意味がわかりました。
「お弁当を食べられる、いい場所あるかな」
 クロはお外に一度も出たことがありません。だからどこに何があるのか、まるでわからないのです。考えても仕方がないので、とりあえず歩いてみて、いい感じの場所を探してみることにしました。
 いつもと違う空気、いつもと違う地面。お部屋の床とは違い、太陽に照らされているので少し熱いし、ゴツゴツしています。歩きにくいはずなのに不思議と心地がいいです。
 足元を見ながら、地面を踏みしめながら、クロは夢中になって歩いていました。
「おい。ちゃんと前見て歩かないと危ないぞ」
 進行方向から、か細い、だけど堂々した声が聞こえてきました。クロは顔を上げました。そこにいたのは1匹の小さな鳥でした。
「君は誰? 」
「おやおや、猫のくせにスズメも知らないのか」
 スズメと名乗ったその鳥は、やれやれと少し呆れた様子で言いました。
「そうなんだ。僕、外に出るのは今日が初めてで」
「とんだ箱入り猫さんだ」
「箱入り……? 」
「要するに可愛がられてるってことだ」
 クロはスズメに圧倒されてしまいました。どうもこのスズメは、自分よりも色々なことを知っているみたいです。
「初めての外の世界は不安がいっぱいだろう。俺がこの辺りを案内してやるよ」
 スズメはクロに外の世界を教えてくれるみたいです。クロはピクニックができる場所を探したいだけなのですが……スズメの勢いに負けて断ることができず、クロはスズメについて行くことにしました。

 スズメの後をついてきてやってきたのは大きな池でした。周りには水草が生え、とてものどかな場所です。人間が3人ほど、桟橋で釣りをしています。
「ここはおいらのお気に入りの場所の一つ。静かだし、水浴びもできるし。それに時々、釣りをしにくるおじさんがゴハンをくれるんだ」
 そう言ってスズメは池へ入り、羽根をバタバタとさせました。クロはその様子を遠くから見ています。
「ん? どうした? お前は来ないのか? 」
 そう言われてクロはビクッとなりました。水浴びは気持ちよさそうだけど、同時にクロの心の中は怖いなという気持ちでいっぱいになっていました。
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