星は嘯く

星は嘯く

<登場人物>
天宮(天文学者)
木下(町役場のお嬢さん)
高尾(不動産屋)
望月(高尾の秘書)
奥村(オカルトマニア)


1、
    小高い丘の上にある民間プラネタリウムの屋上。展望台になっているようだ。
    望遠鏡を覗く男が一人。

天宮  おおいぬ座、シリウス。 こいぬ座、プロキオン。 オリオン座、ベテルギウス。
    …特に変わった点は見られないな。

    いつの間にか木下が横に立って双眼鏡をのぞいている。仕事の帰りか、カバンを持っている。

木下  わあ、キレイ! やっぱりここから見える星は格別ですね!
天宮  またお前か、町役場。
木下  町役場、じゃなくて木下です。そんなに嫌そうな顔しないでくださいよ、天宮さん。
天宮  毎日仕事帰りにご苦労様です。よっぽど暇なんだなうちの町役場は。
木下  平和だってことですよ。
天宮  おかげで毎日そのうるさい声を聴く羽目になっているわけだ、俺は。
木下  女の子にそういうこと言っちゃダメです、モテませんよ。
天宮  望んでない。
木下  そうですね、天宮さんは星しか見てませんもんね。
天宮  天文学者が星を見るのは当たり前だろうが。
木下  まあそうなんですけど…(と双眼鏡をのぞいて)さっきのって冬の大三角形ですよね。
天宮  小学生でも知ってる。で、今日は何だ。
木下  例のお話のお返事を聞きに来ました!
天宮  ああ、それか。
木下  今日こそ良いお返事をお願いします。
天宮  (はぐらかして)…そういえば、明日新しい番組を投影するんだ。解説のチェックしておかないと。
木下  え、新作ですか?
天宮  ああ、爺さんが残した資料を整理していて見つけたんだ。
木下  館長さんの?
天宮  半年前に爺さんが死んでからなかなか手が付けられなかったんだけど、やっとな。
木下  急でしたもんね…
天宮  遺言の中に鍵が入っててな、その引き出しを開けたらこれが入ってた。「上演よろしく」ってメモと一緒に。
木下  へえ、いいなあ。いいなあ。私、ここのプラネタリウム小さいころから大好きなんですよね。
天宮  チェック中、黙っていられるなら見せてやってもいい。
木下  本当ですか?やったあ!
天宮  ただし、条件がある。見終わったら館内を
木下  掃除しろ。ですよね。わかってます。
天宮  なにぶん人手不足なんでね。
木下  スタッフ雇えばいいのに。
天宮  そんな余裕はない。お前知ってて言ってるな。
木下  新作、なんてタイトルなんですか?
天宮  ああ、確か『星は嘯(うそぶ)く』

    夜空に星がきらめく。通り過ぎていく人、人、人。
    星が生まれて、消えていく。天宮が気づいたときには、星は消えてしまった後。

木下  おおいぬ座、こいぬ座、オリオン座。星の輝きは、はるか昔に輝いた光が遠い遠い地球に
    何光年も旅をしてたどり着いたものだそうです。昔の人は、この光の位置をいろんな形に見立てて
    星座を作ったと言われています。もしかしたら、星座の形には何かのメッセージが込められているのかもしれません。
    ずっと昔に星がささやいた、地球への言葉なのかもしれません。
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