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カイゴノヒビ

カイゴノヒビ

第一幕

明転　よたよたと歩く日暮とそれを押している暦が上手から入る
暦　　　　おはよう、日暮。今日はどう？　見えてる？
日暮　　　　……あ、う
暦　　　　　　うーん……やっぱりいつも通りか。神無ー、手伝って
神無上手から入る
神無　　　　んー、おはようございます……あ、日暮さん今日出かける予定あるんですか？
暦　　　　　　うん。今日からヘルパーさんのところに連れていくの
神無　　　　ヘルパーさん……あぁ、先週話していた！
暦　　　　　　うん。今週からお願いすることにしてね。やっぱり神無と私だけだと大変でしょう？
神無　　　　大変というわけではないですが――暦さんの方こそ、毎日こうやってたら疲れるでしょうから
暦　　　　　　っていうか、睦や卯がもっと協力的ならよかったの。あの二人、いっつもやりたがらないんだから
神無　　　　まぁまぁ、あの二人にもそういう事情があるんですから……
暦　　　　　　いつも神無ばかりに手伝ってもらってばかりでごめんね
神無　　　　いや、いいんですよ。何も覚えてない僕に
暦　　　　　　……そっか。ごめんね。日暮、じゃあヘルパーさんのところで大人しくしててね
日暮　　　　……う
日暮下手からハケ
暦　　　　　　よくならないなぁ。……薬、増やしてもらおうかな
神無　　　　ああいうご病気の薬って、どういうものなんですか？
暦　　　　　　よく眠れるようにとか、不安にならないようにとか、そういうやつだよ
神無　　　　……手術とかって、しないんですか？　目や耳ならやろうと思えばできるんじゃないです？
暦　　　　　　うーん、そんな簡単な話じゃなくてね。今のところは様子見って感じかな
神無　　　　そうなんですね
卯睦上手から入る
卯　　　　　　……相変わらずうるせぇなぁ。暦、もうちょい時間考えろや(神無のふくらはぎあたりを蹴ってから胸倉を掴む)
暦　　　　　　卯！　ちょっと、離しなさいよ！
神無　　　　うわ！　う、卯さん。おはようございます。その、離して
卯　　　　　　あーはいはい。(手を離す)　ってか、ヘルパーって何。聞いてねぇんだけど
神無　　　　え、たしか全員に話してからお願いするって
暦　　　　　　だって、皆に意見を聞きたいからって言っても「知らねぇよ」って言って寝ちゃってたでしょ
卯　　　　　　睦、お前聞かれた？
睦　　　　　　うん。どーでもよかったから、勝手にすればって言った
卯　　　　　　だろうな。まぁ、暦だって流石にあんな奴の世話し続けんのだるいだろ
暦　　　　　　それは違う。貴方たちみたいに、嫌だからって理由で押し付けたわけじゃない
卯　　　　　　俺たちみたいにってなんだよ！　ってか、まるで自分と自分に味方してる神無が正しいみたいな感じで話すのやめてくんね？
睦　　　　　　……押し付けたわけじゃない。私だってやることあった。こっちも暇人じゃないの
神無　　　　え、えっと……
暦　　　　　　あぁ、ごめんね神無くん。しばらく寝ちゃってていいよ
神無　　　　えと、いや。大丈夫です。ヘルパーさんのことについて詳しく聞きたいですね
卯　　　　　　あーそう。俺は寝るわ。どーせ外にも出られねぇし中でやることもねぇしな
暦　　　　　　睦は？
睦　　　　　　本読んでる。話すんなら好きにしたら。聞きたきゃ勝手に聞いてる
卯上手からハケ、睦下手側に座って本を読む
暦　　　　　　もう、この二人は……あ、ヘルパーさんのことなんだけどね、倉戸さんっていう人なの。女の人で、年は……皆よりは上かな。基本的に毎週水曜日と、時々日曜日は面倒見てくれるんだって。ほら、今日水曜日でしょ？
神無　　　　あれ、もうそんな時間でしたっけ
睦　　　　　　最近はずっと暦が外に出てたからね
暦　　　　　　それは……倉戸さんと交渉してたから仕方ないでしょ。ごめんねって。睦も神無くんも
睦　　　　　　私はいいけど、それ卯の前では言わないほうがいいよ
暦　　　　　　……だって、警察のお世話になっちゃった人を外に出すわけにはいかないでしょ
神無　　　　え、えっと。あっちでは何をしてもらってるんですか？
暦　　　　　　真っ直ぐ、しっかり歩くための訓練とか。触って文字を確かめるとか、そういう感じのことだね。リハビリに近いかも
神無　　　　へぇ……っていうことは、もしうまくいけば日暮さんも皆と変わらない生活が出来るってことですか
暦　　　　　　うん、そういうこと
睦　　　　　　つまり、今の目も耳も使えない状況を受け入れるってわけ？
暦　　　　　　とりあえずは。本人が何か伝えられるようになるまでは、どうしようもないからね
睦　　　　　　どうしようもない、ね……

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