あの日のバス停
あの日のバス停

[登場人物] 

 山田佳奈(かな) : 眼鏡。妹に夏美(なつみ)がいる。

 橋本心愛(ここあ) : 五十八歳

 山崎さん : 三十二歳。職員。女または男。


  
  バス停。真昼の澄み切った青空。

  佳奈が何か考え込むような雰囲気で歩いてくる。
  舞台中央の長椅子にゆっくり座る。斜め前にはバス停の看板(標柱)が立っている。
  佳奈はバッグから本を取り出す。表紙には「世界史 (下)」の文字。

佳奈 : やだなあ試験。あ、この前の授業でタナカ先生が何か言ってた気がする。試験範囲変わったんだっけ。まいっか。

  佳奈は教科書を椅子に置き、バッグから何かを取り出す

佳奈 : あー、また取れてんじゃん。せっかくデコったのに。

  二つ折りのそれはパーツが少し欠けて(剥げて、もしくは剥がれて)いる。
  それを面倒くさそうにいじる。

佳奈 : いっそケータイごと買い換えようかな。
    いいよね。三年も使ってんだもん。
    ていうかさ、待ち合わせここで合ってんだよね?
    夏美まだ来ないんだけど。

  佳奈はヨイショと立ち上がって、バス停の看板の前に立つ。
  メガネを外して目を擦る。

佳奈 : よく見えないな・・・・・・私、こんな目悪かったっけ。
    勉強のしすぎかな。

  遠くで子供の笑い声が聞こえる
  
佳奈 : いいなあ・・・・・・。私も東京出たら遊びまくるんだから。
    ま、まずは受験に合格しないとね。

  佳奈、再び長椅子に座る。


  間

  佳奈、人が変わったようにうきうきと語りだす。


佳奈 : 夏美、知ってるかな。
    今日のバレンタインイベント、
    スイスのペガサスチョコが来るんだよ。
    しかも今日クラウス・ヘンゼルトに会えるんだって。
    ショコラティエだよ、ショコラティエ!
    ほら、こっちに来ないからさ普段。
    チケット忘れてないよね私。

  佳奈、バッグを漁る。
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