演劇で美人になる方法
演劇で美人になる方法
作 松永 恭昭謀

一人芝居
 
はじめまして。演劇を始めようと思うんですが、演劇をはじめてみるよって方いますか。こんな近い距離で見たことはあまりないんじゃないでしょうか。

知ってるよという方はすいませんが、まず、演劇のよさの一つは想像力です。想像。例えば。私が今、宇宙にいます。というと、ここは宇宙になるんです。これが、映画やテレビドラマにはない演劇の持つ強みです。みなさんの想像力でここが宇宙になる。無限の可能性がそこにはあるんです。

今、みなさんの目の前には、私がいるだけです。
どこにでもいる、とある地方都市の片隅に暮らす。普通の。すっごい美人じゃないけど、なんのドラマチックな出来事があるわけじゃないけど、喜んだり、悲しんだりしている。

いいですか、想像してください。集中して、想像してみてください。
私は超美女です。はい。急に言われてもですよね。がんばって。できる。できますよ。思い込むことが大事。いいですか。思いましたか。自分はそうでもないなあと思っていても、そうなのかもしれない。というのが、大事ですよ。それが演劇なんです。私は美人です。といったら、その瞬間から私は美人なんです。思えてきましたか。ありがとうございます。私、美人です。超美人。
やったー。美人だー。さて、美人になった、どうしようどうしよう。

せっかくなんでね、一回鏡を見ます。
ああ、美人だ。美人でした。私、美人だ。
美人になれました。美人になれるなんて。最高。さあ、美人だあ。ああ、演劇をやっててよかった。
で? まあ、一人で家にいても、もてようがないので、外にでましょう。
で? さて、どうしたもんか、行くところがありません。とりあえずコンビニ? いやいや、美人じゃなくてもいける。美人といえば、そうだ。オサレな場所ですよ。よっしゃよっしゃ。いったろうやないか。今、私は美人でっせ。オサレだろうがなんだろうがいったるがな。

街ゆくみんなが私を見ている。みなさん。美人が通りますよ。ほうら、美人でしょう? 美人が歩いているんですよ。そこのおじさん、美人ですよ。目の保養にみるのはタダだ。そこのけそこのけ美人様のお通りだ。そこのお兄さん、物欲しそうに見てるだけは罪ですよ。ほうら、美人様のお通りだあ。
ほら、街中に燦然と輝くオシャレなロゴにオシャレな外観。外にテラスなんて置いちゃって、あれこそがオシャレの殿堂、スターバックスってやつですよ。

うーん。苦い。てか、寒い。

なんで私はこんなクソ寒いテラス席で、好きでもないコーヒーを一人で震えながら飲んでいるの? これが美人? にが寒いのが美人? そんなわけない。だって私は今、美人なんです。地震・雷・火事・美人。めっぽう美人な八方美人。キレイでカレイでカレンなビジン。

多分これは違う。とりえあず帰ろう。
でも、おなかも空いたのでいつもの牛丼屋へ入ろうとしたら。入れない。ちょっとまってね、私美人。美人と牛丼。いいの? それが美人なの? 駄目。美人はそんなことしちゃだめ。
美人は何を食べればいいの? なんか美人もてあましてない? 美人なれしてなさすぎる。今のところ楽しくない。そんなわけない美人様。美人は正義、正義は美人。

家に帰ると、あれ? なんか電気がついている。え、私電気消したよね。怖い。これが美人ってやつですか。美人になっちゃうと、こういう恐怖があるんですか。美人怖い、美人怖い。どうしようどうしよう。どうしたらいいですか? 美人経験がないと、こういう時ダメだ。警察呼ぶ? ちょっとまって。家の電気消した自信は……ないないない。そこで私はどうするべきか? 私、そこでこうしました。ピンポーン。

えっ、部屋の中から音がする。誰だ。誰? もう間違いなく誰かはいる。怖い。逃げようかと思ってる間に、ドアが開いた。ドアの隙間から、細い手。女? 目線を上げると、見たことのある顔。え?

私?
〇 はい?
あの、私の家なんですけど。
〇 誰ですか?
私ですけど。
〇 わたしさん?
私の家になんでいるんですか?
〇 え? 私の家ですよ。
だから私。
〇 私? 誰?
私。私。
〇 すいません。わかりません。
ここ、私の家ですから。
〇 いや、私の家ですよ。
誰?
〇 私?
私?
〇 私はそんな美人じゃないです。
私はこんな美人になったの。
〇 私が?
私が。
〇 私は美人になりませんよ。
私は美人なったんです。
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