桃太郎墓を掘る
   タイトル 『桃太郎、穴を掘る』  作 本間正史


登場人物  桃太郎(25) 桃から生まれた桃太郎。
              鬼ヶ島に鬼退治に行ってから10年経つ
      捨三(75) 桃太郎の父。「桃太郎」の「おじいさん」。
      よね(75) 桃太郎の母。「桃太郎」の「おばあさん」。
             3日前に死んだ。すでに死んでいる。


      季節は秋である。
      夕暮れが迫っている。
      山の麓のうっそうとした繁み。
      桃太郎、穴を掘っている。
      かなりの大きさの穴である。
      捨三は遠くにいる。

桃太郎 「おーい!」
捨三  「・・・」
桃太郎 「おとー、聞こえるかー!」
捨三  「アー?」
      
      捨三が近づいてくる

桃太郎 「おとー!」
捨三  「アー?」
桃太郎 「無理すんな。」
捨三  「アー? 聞こえねー。」
桃太郎 「そんなに、無理すんなー。」
捨三  「(大声で)なんだー?」
桃太郎 「無理すんなって。柴刈りなら、おれがやっから。」
捨三  「ほっとけー。」
桃太郎 「腰、たたなくなる。」
捨三  「自分の体くらい、自分でわかる。」
桃太郎 「やせがまんすんな。」
捨三  「なんかやってないとなー。
     なんかやってないと、いらないことを考えてしまう。」
桃太郎 「いいから、休んでろ。」
捨三  「好きなんだ、芝刈りが。おめえこそ、少しは休め。」
桃太郎 「まだ若いから大丈夫だ。心配するな」
捨三  「30過ぎたら、衰えていくだけだからな。」
桃太郎 「・・・」

       桃太郎、手を止める

捨三  「どうした。」
桃太郎 「いや。」
捨三  「疲れたか。」
桃太郎 「・・・まあ・・・。」
捨三  「・・・そうか・・・。」
桃太郎 「ああ。」
捨三  「そりゃ、疲れるさ、人が死ぬってことは、疲れる。
     おっかあが死んで、3日もたっていないんだからよ。」
桃太郎 「・・・」
捨三  「生きてても疲れるけどな。」

       桃太郎、また墓を掘る。

桃太郎 「おっかあが死んだときは、何も考えられなかったけど、こうやって墓掘ってると
     なんだかわかんねえけどな、泣けてくる。」
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