メモする二人
(めもするふたり)
初演日:0/0
作者:相馬杜宇
作者へ連絡(上演許可依頼など)
初演会場
初演劇団
キャスト総数
85(男:30 女:35 その他:20)
上演時間
180分
あらすじ
これは2021年5月から12月までのドラマである。

 私は2016年12月18日に脳出血を発症した。半年間の入院生活の末、左の片麻痺になり、歩けるようにはなったが、左手はだらんと垂れ下がり日常生活の役には立っていない。上京以来私は一人暮らしをしていたが、諸事情から母と二人暮らしをすることになった。障害者雇用を通じて在宅ワークにエントリーしたが、仕事は待機。「まぁエクセル関数とか使えるしな」と軽いノリだったが、担当者に告げられたのは意外な一言で、「当分お願いしたい業務はないので、自己研鑽を続けていただく形になってしまうんですが、それでも宜しいですか?」。
 自己研鑽って自己啓発セミナーみたいな感じなのか? マニュアルどっさり送られてくるとか……いやいや、「自己」研鑽だから。間違っても他己じゃないから。聞くと、どうやら待機らしい。その代わり給料は支払われるという。大企業だけあり、社会保険完備!
 私は考えた。というのも、職探しをして半年。ことごとく仕事に落ちまくり、自信もプライドもズタズタ。倒れる前はライターをしていたが倒れたことで解雇されてしまい、行き先も、自分が何者であるかもわからないような状態だった。この際、何でもいい。給料もらえるなら。
 という訳で入社して待機を始めたが、3年が過ぎても、ものの見事に「待機」だった。おーい、当分ってどこ行った? 芝居仲間は「いい仕事見つけたね」と言ってくれるけれど、働いていないことには変わりはなく、「何だかなぁ」と思ってしまう。人事担当者には「社内で有給休暇の取得を奨励してるんで、どの日にちが良いか教えてもらえますか?」と言われる始末。待て待て、待機でしょ? 有給と言ったって意味ないんじゃね? まぁ出したけど。契約切られるのが怖いので。私は待機のポチです。ワン。

 やることと言えば、図書館に行って本を読み見聞を深める日々。劇作家業も、以前は高校演劇の審査の仕事もいくつか頂いていたが、悲しい理由でそれもなくなってしまった。最近ハマっている、濱田ならぬ蒲田の立ち飲み屋でへべれけに酔っ払い、転倒し、ワケの分からぬLINEを送る始末。飲んでる時は楽しいけど、「ホントダメだな。価値のない人間だ」と言われる始末。そう言えば某酒乱気味の俳優にも言われた。「君は大した人間じゃないよ」って。大学演劇サークルの同期に「お前止めろよ。大した才能もねえくせに」って。いい加減劇作家を辞めたいけれど、職探しは死ぬほど苦労したし、もはや足の洗い場も見つからない。そしてやってきたのがコロナ禍。東京オリンピック。演劇人は日々公演を打っている。赤字もたっぷり抱えているらしい。心から同情するけど、私は無傷。そもそも全く全然公演をしていない。「もうゲームオーバーだよ」と心の声が聞こえてくる。落ち込むけど、やることと言えば、思いついた物事をスマホにメモするのみ。別にプロとかどうとかではなく、「劇作家になりたい」と決めた以上は自然の反応。意味があるのか不明だけど、生きるためには仕方ない。気になったトピックをネットや書籍で調べ、ひたすらスマホに、地味にメモする毎日だった。

 この自粛生活で私の読書量は100冊に到達。これ、自慢じゃありません。暇なだけです。だってこれしかないんだもん。
 そんなある日、書いた戯曲がたまたま地元岩手の賞を受賞し、表彰式に行った時、私の思いが次第に変わっていき……。
 そして母もまた変わっていき……。


基本的に私と母がドラマの中心である。この二人は極力達者な俳優を起用して欲しい。その他無数の登場人物が存在するが、それらはコロスが処理する。これは兼ねて構わない。大いに兼ねて欲しい。演出家の裁量に任せる。或いは公演地の地元の方も出演し、一言だけ台詞を言うアイデアも大歓迎。プロの俳優ではなくても、台詞を一言言うだけで輝きが生まれる。忘れられない体験になると私は思う。岩手ではそんな芝居を創りたい。
なお、戯曲に役名などの指定がない限りコロスは仮面を着けている。これはプライバシーの配慮というより、人物を特定しないための工夫だ。

なおこの舞台を上演する場所は東京にあるような小劇場ではなく、もっと広い劇場を想定している。例えば公共の文化ホールのような。つまり、地域を限定せず芝居を上演することで、様々な反応が得られると考えている。
東京で芝居を打とうとすると、ネックになるのが劇場費。さらにはスタッフの人件費が嵩み、「お客さん呼べるだろうか?」「チケット売って!!」とシビアな反応になる。しかし公共ホールなら比較的安価で済み、出演者も土日の休みを遣って出演出来る。そもそも「面白ければ」の話だが。面白ければ、人は集まる(はず)。
スタッフワークに関しては高度な事を要求するつもりはさらさらない。そしてなるべく公演地の地元の方を使って欲しい。知恵を出し合い、今出来る一番の芝居を創る。それが『地元』の演劇だ。

メインは母と私のダイニングルーム。弾みで買ってしまった(勿論リボ払いで)ちょっと高級な書斎チェア、明らかに廃れたパイプ椅子、リビング机、カラーボックスなどが雑然と置かれている。私が戯曲を書いているのはスマホが大半であるが、ヤフオクで買ったノートパソコンを液晶ディスプレイに繋いだものも使用している。
メインにほど近い位置に簡易式ベッドがあり、私は機嫌を損ねるとそれに横になって自由に語りだす。いわば「心のフリーエリア」だ。
他の場所のシーン&荒唐無稽過ぎるシーンが無数に登場するが、作り込む必要は微塵もなく、観客の想像力で作り上げて欲しい。
著作権使用料
はりこのトラの穴の規定に準ずる
追記
これは上演を目的にしていません。読む戯曲です。
AAF戯曲賞一次通過作品。88000字
審査レポートより
鈴木:『メモする二人』は面白かった!応募順に読み、けっこう気がめいってきた半分を過
ぎたころに読んだこの作品のおかげで、この後に控えている応募作も読み通そうと思
えました。かなりのボリュームで、読む時間はかかりましたが、一切飽きなかった。
難しいテーマを扱っていながら、これを書かなければという意志に貫かれ、胆力があ
って、露悪的過ぎず、揺さぶられました。エピソードの取捨選択によるスリム化、構
成などはもしかしたら再考の余地はあるかもしれません。
岩渕:「この人でないと書けない」という部分があると思う。
白玉:お母さんと私の会話が面白い。
鳴海:障害を持ってしまったこと、そこから見える社会との関係性、ネガティブなものをは
ねのける力やそれを塗り替えようとする強い胆力を感じます。
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(2024/2/6 15:20:01現在)

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