冬の王女
冬の王女【ほぼほぼ2人ver】


遭難者


【第1場 モノローグ】

冷たく悲しい音響

冬 「私は冬が大嫌い。生きとし生けるものを凍らせ、生命の灯(ひ)を絶やす…そんな冷たく、恐ろしい冬が大嫌い。
でも、私がそんな冬を嫌い、悲しめば悲しむほど…冬は強くなる。寒さに勝てず、死んでいった生命たちを思って涙を流せば…その涙は雪となり…ますます命を奪っていく。私は冬が大嫌い。なんで私なの?なんで私が冬の王女なの?もう2度と…冬なんて来なければ良いのに…!なるべく何も考えず、何も思わず…感情を押し殺して…。ああ、明日から…冬。私の季節が、来てしまう…。」

音響、どんどん大きくなっていく。

【第2場 母】

  ♪秋を思わせるしっとりとした音響

母 「明日からついに冬ね。フユ。今年こそはしっかりと雪を降らせるのよ」
冬 「ええ、わかっているわ…お母様。」
母 「本当にわかっているの?あなたは一度も雪を降らせた事がないじゃない。」

  ♪木枯らしのSE

母 「アキちゃんは優秀ね。それに比べてあなたは…。冬の王女であることをきちんと自覚しているの?」
冬 「してるわよ。嫌というほどに」
母 「いいえ。してません。今日という今日は言わせてもらいますよ、フユ。私達四季の精はそれぞれの感情を高ぶらせるとその季節を更に彩る事がでいるのは分かっているわよね。ハルちゃんが喜ぶと春風が吹き、笑顔になれば花が咲き乱れて春の香りがたちこめる。なっくんは怒れば怒るほどに、それがギラギラと夏の日差しとなり、夏は暑くなる。そしてアキちゃんが楽しそうに笑えば、その息吹は秋風となり、秋が深まる。そして、あなたは」
冬 「わかってるってば。私は悲しみの感情が高ぶれば高ぶる程、冬が強くなる…。私の涙が雪となる。」
母 「分かっているのなら何故あなたは雪を降らせないの!他の皆は頑張って四季を彩っているというのに…!あなたが雪を降らせないから私が毎年こっそりと雪を降らせて…」
冬 「こんなに出来の悪い娘なら、さぞ涙も流しやすいでしょ。どうぞお母様。今年もその調子でよろしくお願い致します」
母 「何を言ってるのあなたは!自分だけ雪を降らせられない事を恥ずかしく思いなさい!それともあなたは悲しいという感情を持ち合わせていないの?雪を降らす事もできない程、無感情な冷たい人間だとでも言うの!?」
冬 「そうね。そうみたい。私は何の感情も持ち合わせてないのよ。だから、涙を流せない。残念だったわね、お母様。」

  母、フユの頬を叩く。

母 「こんな時にも…あなたは無表情なのね…」
冬 「…気は済んだ?」
母 「…今年こそ、きちんと雪を降らせなさい。それが冬の王女であるあなたの使命なのだから…」

  母、はける。
  ♪木枯らしのSE

【第3場 遭難者】
冬 「そうして…また、冬が来た。凍てつく寒さ。身も凍る冬。木々は枯れ、鳥たちは旅立ち、動物たちは眠りについた。命の呼吸を感じられない、冷たく寂しい季節。せめて、この冬が寒くなりすぎないよう…私は感情を押し殺そう。何にも心を動かさず…ただただ、時間が過ぎるのを待とう。」

動物の悲痛なSE

「寒くて死んでしまったのね…ごめんね…」
  
別の動物の悲痛なSE

「凍えてしまったのね…冬のせいで…ごめんなさい…」

  悲しい音響

「でも、私は悲しんではいけない…私の悲しみは、更に多くの命を奪ってしまうことになるから…。死んでいった命に涙を流してはいけない…雪が降りその屍を雪で覆ってしまうから…
ああ…何の為に冬はあるのだろう…早く…早く終われ…あと、1か月…」

暗転
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