香り纏うヴェール (30分)
■■■
○ 朝食の準備を終えて洗い物をしながら、貴方が今日どんな顔で起きてくるか想像しな
  がら待つのが好き。
  一緒に暮らし始めて11ヶ月。待っていれば必ず帰ってきてくるから、貴方が家を空け
  ている間も幸せな気持ちでいられる。
  世の中の人たちは同性同士に見えるカップルに寛容になった、という事になっている
  らしい。でも実際には私たちに対して見下す様な接し方をしてきた人もいたし、触れ
  るのを避ける為に目を逸らしている様な、私たちの存在を邪魔に思っているであろう
  人もいた。人の内側の事なんて分からない。私の自意識が過ぎるだけで、みんな本当
  に何も思っていないのかもしれない。だとしても、少なくとも私はそう感じていた
  し、私は私の感情を無視なんて出来ない。

■■■朝食
   ○、洗い物をしている。
   寝起きの◆がダイニングに現れる。

◆ おはよう。
○ おはよう。先に食べてていいよ。
◆ 待つよ。
○ いいのに。
◆ 今日は急ぎじゃないし。
○ そう。だったら一旦切り上げて、私も一緒に食べちゃおうかな。

   ◆○、テーブルに着く。

◆ じゃあ、
○ いただきます。
◆ いただきます。
○ ジャムは?
◆ いいよ、自分で取るから。

   ◆、ジャムに手を伸ばす。

○ あ、残り少ないかも。
◆ ホントだ。
○ 買っとくね。
◆ うん。
○ またブルーベリーでいいの?
◆ 他も試したい?
○ 私そんなに食にこだわりない。
◆ 知ってる。
○ 貴方が紅茶にジャム入れるの見て、最初はどうかなって思ったんだけどね。
◆ 食にこだわりないのにね。
○ 親の躾のせいだよ。やる事なす事はしたないって言われ続けて、礼儀を教え込まれて 
  ると思ってたのが、いざ社会に出たら単に親のエゴを押し付けられてただけだった。
◆ 紅茶とジャムって他の国には普通にある組み合わせだからね。本場では直接入れるん
  じゃなくて、舐めながら飲むらしいよ。
○ デザートっぽい感覚かもね。ブルーベリーの花言葉は、えっと…、知恵! 知恵
  と…? 知性と…! 知恵と知性。知恵と知性と…、知恵と知性。知恵と知性と…? 
  大丈夫? 私、今、知恵と知性全然ない感じになってない?
◆ 知恵と知性だなぁって思いながら見てた。
○ なら良し。…知恵と知性と?
◆ 好意。有意義な人生。
○ それ。覚えとくね。
◆ 忘れてもいいよ。また教えるから。
○ うん。今夜は何が食べたい? 
◆ ちょっと一緒に行ってみたい店を見付けたんだけど…。
○ 記念日に取っておかなくていいの?
◆ 記念日にしか特別な事がないなんて勿体ないよ。
○ そうだね。仕事は早く終われそうなの?
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