カンテラ町の灯【綻び】
カンテラ町シリーズ:11話
 当時の「七毒」を統べる長、黄雲が拠点とする都の大屋敷。
 別棟の客間では、招集のかかった麻由良が椅子に腰掛け読書をしている。
 ひょこりと現れた荼毘丸が麻由良の姿を見つけるなり、嬉しそうに手を挙げる。

荼毘丸:あれっ、麻由良(まゆら)姉さんじゃないっすか!
荼毘丸:姉さんもこっち来てたんすねぇ。
荼毘丸:いやぁ、むさ苦しい空気が一気に潤されるなぁ!

 断りもなく麻由良の向かい側に腰掛け、満面の笑みを浮かべる荼毘丸。
 顔を上げた麻由良の表情には煩わしさが浮かぶ。

麻由良:……読書をしているのが見えないのかしら「駄犬」。
麻由良:声量を落としてもらえる? あと向かいに座るのを許可した覚えもないのだけれど。
荼毘丸:まぁまぁまぁ、そう固いこと言わずに!
荼毘丸:しッかし相変わらずお綺麗っすねぇ、姉さん。読書が絵になるわァ。
麻由良:女に世辞を言わないと死ぬ病気にでもかかっているの、あなた。
荼毘丸:「美人に限る」っての注釈入れといてくださいね。
麻由良:極めてどうでもいい情報だわ。

 本を閉じ、物憂げに頬杖をつく麻由良。

麻由良:あなたが居るということは、また兵士の補填(ほてん)でもするつもりかしら。「雷(かみなり)」様は。
荼毘丸:みたいっすよ。黄泉(よみ)と取引して百ばかし増やせってさ。
荼毘丸:百っすよ、百! 簡単に言ってくれるよなぁ……。
麻由良:本格的に国取りでも始めるつもりかしらね。
荼毘丸:ですかねぇ。姉さんも戦(いくさ)の呼び出し?
麻由良:まぁね……。先日、一国落としてきたばかりなのに人使いが荒いわ。
荼毘丸:わお……。あれ姉さんだったんだ……。さすがっすねぇ。
麻由良:随分と勢力の誇示に躍起になっているみたいねね、新しい長(おさ)様は。
荼毘丸:それっすよ。劉雲(りゅううん)の旦那は阿呆だったから適当に流しても怒られなかったけど……。
荼毘丸:「雷」様はおっかねぇっすね。戦の鬼だわ、ありゃあ。

 ため息を落とす麻由良。

麻由良:「七毒(しちどく)」も変わったわ。
荼毘丸:そうなんすか? 麻由良姉さんは古株っすからねぇ。
荼毘丸:俺、あんまり昔のことは知らねぇしな。
麻由良:少なくとも、今のように必死になって覇権は狙っていなかったわね。もっと保守的だったわ。
荼毘丸:ふーん……時代ってやつっすかねぇ。
麻由良:私はずっと十坐(じゅうざ)が長をやれば良いと思っていた。
荼毘丸:じゅうざ……ああ、「剛拳」の旦那?
荼毘丸:残念っすねぇ、あんなことになっちまって。
麻由良:彼には人間という概念を覆されたわ。
麻由良:腕もあるし、芯も通っていて嫌いじゃなかった。
荼毘丸:へぇ珍しいっすね、姉さんが人間のこと褒めるなんて。
麻由良:だからこそ早くに身を滅ぼす結果になったのかもしれないわね。全く、因果な話。
荼毘丸:あ、でも俺も芯が通った男の自負はあるっすよ!
麻由良:寝言にしては声が大きいわ。
荼毘丸:んー辛辣。でもそこが良い……。
荼毘丸:あっそうそう、十坐の旦那と言えばっすね……。
麻由良:そろそろ読書に戻らせてくれないかしら。
荼毘丸:まぁまぁまぁ! 知ってます? 娘さんが来てるらしいんすよ。
荼毘丸:美人らしいんだ、これが!
麻由良:ふうん。
荼毘丸:あっ、もちろん麻由良姉さんにはかなわねぇっすからね。
荼毘丸:そこは安心してくださいよ。
麻由良:何に対して安堵すればいいの?
荼毘丸:名前何て言ったかなぁ……。
荼毘丸:これまた可愛らしい感じだった気がするんだけど……。
水月:菖蒲(あやめ)ちゃんでしょ?
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