野良代書店のモノローグ
〜偽曲シンデレラ〜
登場人物
・暁烏由良
・野良代晩熟
・新田怜


そこはとある町のとある古本屋
狭い店内には所狭しと古本が積み上げられている
奥にテーブルとイスがある
テーブルの上にも古本が山のように積み上げている
そんな積み上げられた古本の隙間から椅子に一人の男が座っているのが見える
男の名前は「野良代晩熟」
この物語の登場人物である
野良代、ゆっくりと客席に話しかける

野良代  「『戯曲』と言うのは、俳優によって演じられ上演されることを目的として執筆された文学作品の事を指す。この定義に従うとしたら、則るとしたら、俳優の存在しない戯曲は戯曲ではない、という事になるんだ。つまりこの文学作品は、ここに置かれているだけでは何の意味もなさない。ただ、ひとたびどこかの誰かが、どこの誰でも構わないけど、そのページを開いた時、物語は始まる。俳優なんかいなくても、誰だって頭の中に想像力って言う俳優を抱え込んでいるんだから。ところで戯曲の特徴を知っているかな?それはね、その殆どがページの殆どが台詞によって埋まっているという事。これが実に僕たち向きなんだ。だって僕たちも会話をすることで人生を進めていくのだから。何よりも僕たちに近い文学作品、故に最も僕たちに影響を与えるのかもしれない。例えそれが偽りの、曲げられた物語になるのだとしても、ね。」

   野良代が話し終えるとそこは少し明るくなる
   すると店内には野良代以外にももう一人人がいることが分かる
   椅子に座って俯いている少女が一人
   名前は『新田怜』
   野良代、新田互いに言葉は交わさない
   そこへ店の扉が開く音と誰かが歩いてくる音が聞こえる
   やがてその足音の主、『暁烏由良』がやってくる

暁烏   「それで?用件って何?野良代」
野良代  「やあ、待っていたよ暁烏センパイ」
暁烏   「(舌打ちをしながら)だから、そのセンパイって言うのやめろっての。(新田に気付き)ん?誰?その子?」
野良代  「ああ、良い所に気が付いたね。凄いじゃないか」
暁烏   「そりゃ気付くでしょ。いつもこの店あんた以外いないんだから」
野良代  「ヒドイな、これでも年中無休で営業しているんだよ」
暁烏   「だって、こんな戯曲?だっけ?専門の古本屋なんて物好きしか来ないでしょ」
野良代  「そうでも無いさ。演劇部や演劇サークルの学生や、文学好きな方々には好評なんだよ」
暁烏   「ふーん。でもその子はそのどれでも無いような気がするけど(言いながら新田を見て何かに気付く)ねえ、あなたそれって」

   暁烏、新田に近づき腕に触れようとする
   しかしその瞬間、新田が反射的に手を上げて自分の顔や体を守るように身を固める

新田   「ごめんなさい!」
暁烏   「(驚いて)え?いや、こっちこそごめんね、急に。でも、あなたその腕」
野良代  「どうやら、家庭内暴力って奴らしいね」
暁烏   「家庭内暴力?」
野良代  「高校生でも児童虐待って言うのかな?ほら、腕だけじゃなくて、足も。恐らく見えない所はもっとひどいだろうね。」
暁烏   「じゃあ父親か母親が?」
新田   「パパは、パパはそんなことしません」
暁烏   「パパは?ってことは・・・」
新田   「パパもママももういない」
暁烏   「え?」
野良代  「複雑なんだよ。小さい頃に母親を亡くして、父親が後に再婚。その父親も昨年亡くなったそうだ」
暁烏   「じゃあ、今は血の繋がってない母親と?」
野良代  「それと歳の近い、姉が二人。血の繋がりの無いね」
暁烏   「まさか、その二人にも・・・?」
野良代  「・・・」
暁烏   「嘘でしょ。そんなの、まるで・・・」
野良代  「そうだね、まるで、灰かぶり姫」


   ―偽曲シンデレラ―


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