ジョリールージュの恋人
殺し屋シリーズ:10話
 煌めくネオンが眼下に広がる、深夜のホテル。
 上層階のスイートルームに備わるキングサイズベッドで眠る男女の一組。

 女の目が開き、ゆっくりと起き上がる。
 額に手を当て、浮かない表情。

 傍らの男が腕を枕にして女に語りかける。

男:悪い夢でも見たか?
ブルズアイ:ああ、起こしちゃった?
ブルズアイ:そうねぇ、気分の良いものじゃないかな。
男:そんな顔するんだな、お前も。
ブルズアイ:私を何だと思ってんのぉ?
ブルズアイ:か弱いのよ、こう見えて。
男:はは、寝言にしちゃあ、はっきりしてるな。
男:お前ほどタフな女は他にいないだろ。
ブルズアイ:それはどーもォ。
男:まぁ俺も負けちゃいないぜ。
男:どうだ、眠れないなら朝まで……。
ブルズアイ:ごめんなさいねぇ。
ブルズアイ:今はそんな気分じゃないかも。
男:何だ、釣れねぇな。
ブルズアイ:釣れないくらいが燃えるでしょ?
男:ふっ、わかってるじゃねぇか。

 起き上がり、ベッドに腰掛けた男がタバコに火をつける。

男:なぁ、「ルージュ」ってのは知り合いか?
ブルズアイ:あら、何であなたの口からその名前が出てくるのかしら。
男:うなされてたぜぇ。
男:よほど悪い夢だったみてぇだな。
ブルズアイ:……ハァ、らしくないわね。
ブルズアイ:小娘じゃあるまいし。
男:面白そうだ、聞かせてくれよ。
男:お前、全然自分の話しねぇしよ。
ブルズアイ:あらぁ、女の過去を詮索するなんて野暮じゃない?
男:いいだろ、夜は長いんだ。
男:目も覚めちまったしな。
ブルズアイ:仕方ないわねぇ、特別よ?
ブルズアイ:チープなドラマだけど、子守歌代わりにはなるかしら。
男:ああ、頼むよ。

 ソファに腰掛けるブルズアイ。
 まばらに光る夜景を横目にして、静かに口を開く。

 数年前の情景が浮かんでくる。

 放置されたまま老朽化した雑居ビルのワンフロア。
 小さな一室の中央には口にガムテープを貼られ、拘束された男の姿。
 正面に立つ男がその様子を煩わしさを浮かべて見下ろしている。

ブラッド:んーッ! んーッ!
バイソン:……チッ。

 口に貼られていたガムテープが乱暴に剥がされる。

バイソン:うるせぇぞ、坊主。
バイソン:女みてぇにギャーギャー騒ぐな。
ブラッド:た、助けて! お願いします。
ブラッド:お金なら払いますから……! いくら欲しいんです。
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