ヴェノムの姉妹
殺し屋シリーズ:9話
 華やぐ大都市の一角では毎日のように銃声が轟いている。
 理不尽な暴力に塗り固められた裏の顔。
 喧騒も素知らぬ顔で一人の女が歩いていく。

スコーピオン:(この腐った社会のルールはシンプルだ。)
スコーピオン:(弱い奴は喰われて強い奴が根こそぎ奪っていく。)
スコーピオン:(金と銃の腕のある奴が幅を利かせるクソッタレな世の中だ。)
スコーピオン:(だが所詮、つま弾きモンが幅を利かせたところで権力者にとっちゃおあつらえ向きのショーに過ぎない。)
スコーピオン:(奴らは毒虫同士が腹を喰い破る様を見て楽しんでやがる。)
スコーピオン:(最後の一匹になるまで手を叩いて喜ぶんだろうな。)

 視線の先、地面には虫の死骸が転がっている。
 腐り、分解されていく躰を冷めた目で見下ろす。

スコーピオン:(ああ、わかってる。)
スコーピオン:(私が生きてるのはそういう世界だ。)

 鳴り止むことのない騒音を後にして女は去っていく。

 同じ頃、情報屋としての顔を持つカフェ「フラッパー」。
 客として訪れたセンチピードがカウンター席でゲームをしている。

 コーヒーを差し出すルージュ。

ルージュ:お待たせ。
センチピード:ありがと。
センチピード:やっぱり落ち着いてゲームするのはここに限るわ。
センチピード:ウチじゃシャークがうるさくてさ。
ルージュ:ベレッタちゃんも同じようなこと言ってるけど、褒め言葉と受け取ってもいいのかしら?
センチピード:もちろん。落ち着ける場所って貴重よ。
センチピード:こんな街の中じゃね。
ルージュ:それは嬉しいわね。カフェやってる身としては。

 コーヒーを口にし、ルージュの横顔を眺めるセンチピード。

センチピード:ね、ルージュ。
ルージュ:ん?
センチピード:やっぱりこの間のこと怒ってる?
ルージュ:何のことかしら?
センチピード:ほら、ナイトホークスの。
センチピード:ブルズアイ逃がしたでしょ。
ルージュ:ああ……そのこと。
センチピード:あなたたちにイザコザがあるのは知ってるけど、私たちもチームでやってるわけだから、ねぇ?

 センチピードと目線を合わせ、ふっと笑顔を見せるルージュ。

ルージュ:……ふふ、身構えなくてもいいわよ。別に気にしちゃいないわ。
センチピード:それならいいんだけど。
ルージュ:これは私たちの問題だしね。
ルージュ:あの時はちょっと頭に血が上って……。
ルージュ:恥ずかしいところ見せちゃったかな。
センチピード:まぁ……本当に色々あったんだな、っていうのは伝わってきたかも。
ルージュ:それにしてもムカデちゃんたちには借りができたわねぇ。
センチピード:コーヒー一杯でいいわよ。
ルージュ:あら、シャークちゃんといいあなたといい、随分ウチのコーヒーを高く買ってくれるわね。
センチピード:えっ?
ルージュ:こないだ来た時、同じこと言ってたわ。
ルージュ:「コーヒー一杯でいいぜ」って。
ルージュ:仲が良いのね。
センチピード:……何か、癪(しゃく)だわ。
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