尻尾
「尻尾」

    ◆登場人物
    ぼく(尻尾が生えていて、それをよく食べている人)



    幕

    舞台上には、尻尾をぶらさげた人間(ぼく)がひとり。
    その周りに、段ボール箱などにまとめた、わずかな荷物。
    ぼく、尻尾をちぎっては食べ、ちぎっては食べ(のマイム)を繰り返す。
    とても美味しそうだ。

    ぼく、客席からの視線に気づく。

ぼく   なに見てるんですか。

    ぼく、尻尾を振って

ぼく   これ? 尻尾。見たらわかるでしょ。自分の、尻尾を、食べています。だって、生えてるので。

    ぼく、尻尾を食べつつ、話を続ける。

ぼく   幼稚園にあがるぐらいには、生えてました。おかしいとは思ってましたよ。んー、小さい頃から、ちょっとかじるくらいはあったかな。

    ぼく、しばらく食べて満足した様子。

ぼく   ふぅ。

    ぼく、一旦去る。
    少ししてまた戻ってくる。
    尻尾がもとのサイズに戻っている。

ぼく   じゃん。再びの、尻尾です。食っても食っても生えてきます。しかし、食べます。それゆえにこそ、食べます。どうせなら、美味しい思いをしていたい。むしゃくしゃするたびむしゃむしゃする。めちゃくちゃにくちゃつく。むしゃぶり尽くす。

    客席を見やって

ぼく   こういう視線にも、慣れっこです。

    思い出したように

ぼく   そうだ、学校に行かなきゃ。

    チャイム。にぎやかな声。
    ぼく、箱のひとつに座る。

ぼく   今時の子どもはダイバーシティ教育が行き届いているのか、尻尾についてはなにも言われない。というより、どうでもいいのか。

    ぼく、慌てて正面を向く。
    授業中、先生に指名されていたのに、気づいていなかったようだ。
    立ち上がる。

ぼく   「…………あっ、はい。エックスイコールじゅういち、です。」

    きまり悪そうに、席につく。

ぼく   ぼくひとりが、ぼくの尻尾に注目している! そういう意味では、哀れな尻尾だと思う。哀れだなお前。

    ぼく、尻尾に大声で叫ぶ。
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