ケシカスラー
2022版
『ケシカスラー』 作:清野 和也

◎登場人物
三菱かなめ:女。地元の国公立の大学に通う3年生。
コーリン:男。かなめの隣人で幼馴染。同学年。地元の医科大に通う。
トンボ :女。かなめ、コーリンの幼馴染。16歳のときに近所にある十六沼で溺死。


    三菱かなめの部屋だった場所にて。4月の夜。世界は消しゴムのケシカスが集まって生まれた怪獣ケシカスラーによって滅ぼされている。開演少し前から大学3年のかなめが、部屋の真ん中にひとりぼっちでただ座っている。部屋の中には、なにひとつモノがない。開場中の音楽も次第に音を失っていく。完全な無音。開演。


かなめ   「(声を枯らし絞り出すように)関係ない!」


    いつのまにか部屋にトンボがいる。


トンボ   「関係ないの?」
かなめ   「…トンボちゃん?」
トンボ   「部屋真っ暗にして。電気つけたら?」
かなめ   「どうして、」
トンボ   「かなめ、昔もよく真っ暗の中でゲームしてたね。(電気のスイッチを入れるが)あれ?」
かなめ   「…つかないよ」
トンボ   「電球きれてるの?」
かなめ   「電気もガスも水もネットも全部止まった」
トンボ   「払ってないの?」
かなめ   「ううん、」
トンボ   「実家だもんね」
かなめ   「もう誰も居ないけど」
トンボ   「うん」
かなめ   「コーリンのとこも」
トンボ   「うん」
かなめ   「トンボちゃんとこも」
トンボ   「誰もいないんだ」
かなめ   「行ってないの?」
トンボ   「うん。まぁ、でも、」
かなめ   「何しに来たの?」
トンボ   「思ったより驚かないんだね」
かなめ   「驚く元気もないだけ」
トンボ   「声すっごいガラガラ。泣きわめくから」
かなめ   「聞いてたの?」
トンボ   「うん」
かなめ   「カッコ悪いね」
トンボ   「(窓だったであろうところから外を眺めながら)みごとにこの家しか、この部屋しかないね。この辺りは」
かなめ   「もうこの部屋しかないのかもしれないね、世界には」
トンボ   「・・・他のモノがなにも無くなったから、私が見えるようになったのかな」
かなめ   「(いきなりトンボから離れて)・・・連れて行こうとしてる!?」
トンボ   「え?」
かなめ   「みんな、あの怪獣は私のせいだって思ってる、死んだら私あの世で何されるか」
トンボ   「かなめ」
かなめ   「トンボちゃんがいるってことは、やっぱりあるんだよね、あるんだね、死にたい、でも」
トンボ   「かなめ!」
かなめ   「死んだあとも怖い」
トンボ   「しっかりしなさい」
かなめ   「許してください、」
トンボ   「そういうんじゃなくて」
かなめ   「こんなことになるなんて思わなくて、」
トンボ   「聞いてって」
かなめ   「・・・それじゃあ、助けてくれるの?」
トンボ   「・・・」
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