旅立ちの桜
旅立ちの桜

作:麻井 美希

舗装されていない山道を二人の少女(アンナ・マキ)が歩いている。アンナは動きやすい服装、マキはアンナに比べ軽装である。


マキ    ねぇ・・・帰ろう?もう夕方だよ・・・最終のバスに間に合わないよ?
アンナ   大丈夫だって。マキはなーんにも気にしないでいいんだって。
マキ    でも・・・。
アンナ   きれいな桜が見たいって言ったのはマキでしょ?
マキ    そうだけど。でも、まさかこんなに山奥に行くなんて思ってなかったから。
アンナ   この山のてっぺんから見る桜ほどきれいなものはないんだって。
マキ    でも帰れる?みんな心配するよ・・・。
アンナ   大丈夫大丈夫。18歳成人済み、自分の責任は自分で取りまーす。あっ!見えた!あれ!
マキ    わぁ・・・。

山の斜面いっぱいに満開の桜が見える。二人は目の前に広がる桜の群生の美しさに息をのむ。

アンナ   言ったでしょ。ここから見る桜ほどきれいなものはないって。
マキ    うん・・・。
アンナ   あれ、マキ、泣いてる?
マキ    え?(涙を拭き)あれ?なんでだろ?
アンナ   感動しちゃった?さすがマキ。心がきれい。
マキ    そんなことないよ。
アンナ   いやいや、きれいな景色で涙を流せる人なんてそうそういないよ。
マキ    そうかなぁ。
アンナ   私もマキと一緒にこの桜見たかったんだよね。
マキ    ありがとう。アンナが連れてきてくれなかったら私こんなきれいな景色見ることなかった。
アンナ   喜んでくれてよかった。わたしもちゃんとお礼しなきゃって思ってたから。
マキ    お礼?
アンナ   マキ。私のそばにずっといてくれてありがとう。
マキ    なに改まってるの?友達だもん。当然でしょ?
アンナ   当然じゃないよ。私みたいなのにずっと付き合ってくれるなんて。
マキ    アンナだって、ひとりぼっちだった私に声かけてくれたでしょ?
アンナ   そうだっけ?
マキ    そうだよ。私忘れない。公園でひとりで遊んでた私に声かけてくれて一緒に遊んだこと。二人で駄菓子半分こして食べたこと。
アンナ   あったね・・・そんなこと。
マキ    男の子たちに取り囲まれて、大事にしていたぬいぐるみをとられたときに、取り返してくれた。
アンナ   あぁ・・・。最終的には殴り合いのけんかになって、めちゃくちゃ怒られたやつ。本当にバカだよね。好きな女の子に意地悪して本気で嫌われちゃうんだから。
マキ    私人と話すの苦手で。特に大勢の人に囲まれると声が出なくて。だからいつも明るくて、曲がったことが嫌いで、私のこと引っ張っていってくれるアンナのこと、すごく頼もしく思ってた。
アンナ   なんか照れる。まぁ、その性格が大体のトラブルの元なんだけど。
マキ    ケガをしてまで私のこと守ってくれたの、アンナしかいないの。あの時はごめんね。
アンナ   いやいや何年前の話よ。話してもらうまで私忘れてたよそんなこと。
マキ    だから高校から離れるの、正直嫌だった。引っ越しさえなければ、アンナと同じ高校受けたのに。
アンナ   やめときなって。マキなら勉強しなくても余裕で首席だわ。それに、結構会いに来てくれたじゃん。最初のころなんかうちのクラスで「校門の前にかわいい子がいる」って噂になってたんだから。
マキ    えぇ・・・それは初耳・・・。
アンナ   嬉しかったよ。マキが来てくれるのって、大抵私が落ち込んでるときなんだよね。
マキ    そうだったんだ。私も、「なんか今日はアンナに会いたいな」って気分の日に行ってたの。お互い様?
アンナ   そうかも。私、高校はあんまりうまくいってなくてさ。もう辞めてやるって何度も思ったんだけど、マキの顔見るたびにもうちょっと頑張ろうって気になれたんだよね。マキがいなかったら卒業できなかった。マキのおかげ。ありがとう。
マキ    そっか、私、役に立てたんだ。
アンナ   だから、マキ。
マキ    なに?
アンナ   もう、いっていいよ。私は大丈夫。
マキ    え?
アンナ   マキのいる場所は、ここじゃない。
マキ    ・・・。
アンナ   1年前、テレビで見たんだ。マキの住んでいた場所で火事があったって。テレビの画面に、マキのおじさんと、おばさんと、マキの名前が出てた。
マキ    ・・・。
アンナ   最初は信じたくなかった。同姓同名の別人だって。それにその日の夕方、マキは会いに来てくれたし、そのあともしょっちゅう会いに来てくれた。
マキ    ・・・。
アンナ   でも、周りの人私のこと、変な目で見るんだ。クラスの子にも、「お前、独り言でかいな」って言われた。あぁ、私の目に見えているマキは、もうこの世にはいないんだ・・・って、だんだんわかるようになった。
マキ    ごめん・・・。
アンナ   なんで謝るの?言ったじゃない。マキがいてくれたから私は高校卒業できたし、嫌なことがあっても頑張れたって。でも、もう、大丈夫。いつかはひとりで生きていかなきゃいけないんだし、多分今がその時だと思う。
マキ    アンナ・・・。
アンナ   マキ、ありがとう。ずっと友達でいてくれて。私、マキと出会えてよかった。マキに恥ずかしくないように頑張るから、今度は別の場所から私を見ていて。
マキ    ・・・うん。たまに夢枕に立つくらいは許してくれる?
アンナ   大歓迎。
マキ    じゃあね。ずっと、ずっとアンナのこと大好き。また、いつか、会おうね。
アンナ   うん。じゃあね。

マキ、アンナのもとを去る。

アンナ   またいつか、この桜を一緒に見れる日が来るかな・・・その日まで、さようなら。さようなら、マキ。


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