【朗読】スワンソングをあなたと
『スワンソングをあなたと』

《登場人物》
胡蝶
夏目雄三
小菊
夏目聡美


PROLOGUE

曲(スワンソング)が流れてくる。
明転すると、四人の登場人物が座っている。

小菊 さよなら三角、またきて四角。また寒い冬がやってくる。本格的な冬を前に、嫌なニュースが飛び込んできた。私の愛するお父さんが、兵隊にとられた。外国に送られるという。間違いであって欲しい。人違いであって欲しい。今度来てくれた時に、確かめてみようと思う。
聡美 お父さんに招集令状が届いた。外国に派遣されることになる。とても不安だ。間違いであって欲しい、人違いであって欲しいと願ったけれど、令状に書かれた名前は、お父さんのものだった。一人残される私は、一体どうすればいいの?せめて何事もなく、無事に帰ってきて欲しいと願うことしかできない。
雄三 とうとう戦地に赴く時が来た。予備役といっても軍人である以上、何か事があれば、国のため、愛する人達を守るために戦わなくてはならない。だが、今回の任務は、本当に国を守ることに繋がるのだろうか。愛する人達を守るために、本当に必要な派遣なのだろうか。俺には確信が持てない。
胡蝶 こんばんは。よくご予約が取れましたね。一見さんはなかなか入り込む余地がないのよ。でも、私の所に来てくれて有り難うございます。きっと心も身体もお疲れなんですね。私には何でも話してくれていいんですよ。全部私の中にのみこんで、消化しますからね。

SCENE1

胡蝶の部屋。

雄三 ずっと君に会いたかったよ。
胡蝶 あら、有り難うございます。今までも、こういう場所には来たことがあるの?
雄三 ああ、女房が亡くなってから、寂しさを紛らわせようと思って、よく来るんだ。だから、あなたの名前も知っていた。
胡蝶 どうしてすぐに来て下さらなかったの?
雄三 それこそ、予約が取れなかったんだ。なかなか予定が合わなくてね。
胡蝶 他に馴染みの子がいたんでしょ?
雄三 いや、それは…
胡蝶 ふふふ、正直な人ね。
雄三 いや、でも本当に会いたかったんだ。せめて最後に抱きたいと思って。
胡蝶 最後ってどういう意味?
雄三 ああ、俺は予備役なんだけど、海外派兵の招集がかかったんだ。行く先は、台湾らしい。
胡蝶 本当に?
雄三 ああ。
胡蝶 今世界で一番危ない地域って言われてるでしょ。
雄三 だから、もう帰れないかも知れない。それで、あなたのことが思い浮かんでね。
胡蝶 夏目さんの所属は何ですか?
雄三 陸軍だ。人間が人間に対面して、生々しく殺し合う、戦争を代表するような存在だよ。
胡蝶 怖いわ。今まで戦闘を経験したことはあるの?
雄三 いや、自衛隊時代からずっとなかった。訓練で実弾を使うことはあっても、狙う的は全部ダミーだからね。
胡蝶 夏目さんは、人を殺すのには向いてないと思います。優しい目をしているから。
雄三 実は俺も、自分には人を殺すのは向いてないと思ってるんだ。自衛隊に入隊したのだって、どっちかと言えば生活のためだった。まさか、本当に戦う日が来るとは思ってもいなかった。
胡蝶 そうだったんですか。
雄三 災害派遣で、被災地の人達の役に立つのは好きだったから、やめなかったんだ。同じ派遣でも、今回は外国だろ。それも、生きて帰れる保証はない。
胡蝶 縁起でもない。きっと戻って来られますよ。そうしたら、また遊びに来て下さいね。
雄三 そうできることを願うよ。
胡蝶 じゃ、シャワーを浴びましょうか。
雄三 そうだね。

シャワーの音。

SCENE2

《回想シーン》
小菊の部屋。

小菊 今日も来てくれて有り難う。
雄三 こっちこそ、楽しかったよ、
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