宙に紙飛行機を
宙に紙飛行機を

作:音田薫

(人物一覧表)
カイ(28)…測量士
ヒロ(28)…宇宙飛行士


〇砂浜(夕方)

砂浜にカイ(28)とヒロ(28)。カイはスーツ姿。黒のネクタイ。ヒロは高校の制服。二人は紙飛行機を折って海に向かって飛ばす。カイの紙飛行機が落ちる。

カイ「十メートルってところか。やっぱお前には敵わないな」
ヒロ「年季が違うのさ」

ヒロの紙飛行機が見えなくなる。

カイ「ヒロの紙飛行機、水平線の向こうまで行ったんじゃないか」
ヒロ「さすがに無理だと思うよ」
カイ「もう見えないぞ」
ヒロ「カイは力を入れすぎなんだよ。もっと肩の力を抜いて。ふわっと」
カイ「ふわっと、ねぇ。難しいな。どれ」

ともう一つ紙飛行機を投げる。

ヒロ「お。さっきよりも」
カイ「十五メートルかな」
ヒロ「目測でよくそんな正確に分かるね」
カイ「測量士やってたらな。自然と身に着いてた」
ヒロ「職人みたいだ」
カイ「みたいじゃなくて職人なんだよ。俺としてはこんなスキルいらないんだけどな」
ヒロ「音楽には関係ないから?」
カイ「歌にどう活かせと」
ヒロ「意外と作詞に役だったり」
カイ「するか?」
ヒロ「……降参です」
カイ「言い出しっぺにはもう少し粘ってほしいところだね」
ヒロ「測量、測量……。一目でトロンボーンの長さが分かるとか」
カイ「いったい何の意味が。それに金管楽器は使わないぞ。ロックだからな」
ヒロ「ギター、ベース、ドラム、キーボード」
カイ「それそれ」
ヒロ「うーん。測量、測量……」
カイ「いいよ音楽の話は。どうせ俺は……。というかお前、できないの? 目算で距離測るの」
ヒロ「いや、できないけど。え、どうして?」
カイ「宇宙飛行士って万能じゃねぇの?」
ヒロ「万能じゃないよ? 君の中で宇宙飛行士ってどういう存在なの」
カイ「テレビで見た情報じゃ何でも屋って感じだったぞ。助けの無い宇宙空間。不測の事態に対応するためにありとあらゆる知識や技術を」
ヒロ「それは言い過ぎだね」
カイ「そうなのか」
ヒロ「現実は意外と普通だよ」
カイ「普通。普通ねぇ。いやいや、飛び級でMITの院まで卒業した奴は普通じゃないだろ」
ヒロ「それは僕だけね」
カイ「よっ。若き天才」
ヒロ「恥ずかしいな。皆が勝手に言ってるだけだよ」
カイ「謙遜しなくてもいいだろ。お前は凄い奴だよ」
ヒロ「凄くなんかないさ。せっかく宇宙飛行士になれたのに宇宙には行けなかったんだから」
カイ「それはお前のせいじゃないだろ」
ヒロ「結局、子供の頃からの謎は解けなかったな」
カイ「宇宙空間で紙飛行機を飛ばしたらどうなるか、だっけ」
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