春のような人
【春のような人】


   人物

 千葉翔太(26) 会社員
 田中透(32) 個人作家事務所の事務員





〇事務所前

   曇り空。
   閑散とした事務所の前。
   千葉翔太(26)、入り口の前で立ち止まり、不安げな表情で事務所を見上げる。
   左手に握られた万年筆。
   田中透(32)、事務所の前の近くの曲がり角から現れ、千葉に気が付き、目を見開く。

田中「お前……」

   千葉、田中に気付き、田中と目を合わせたあと、俯く。


〇事務所

   電気の消えた事務室。
   本棚のそばには段ボールが積み上げられている。
   千葉と田中、事務室に入る。
   田中、ブラインドを上げ、窓を開ける。
   千葉、部屋を見渡し、部屋の隅にある埃のかぶった机を見つめる。
   田中、千葉に向かって

田中「お前の席、あのときのままだから」

   千葉、切なげに眉を寄せる。

田中「今まで何をしていたんだ」

   千葉、答えない。

田中「どうして急にいなくなった?」

   千葉、俯く。
   田中、ため息をつく。

田中「今さら何をしに来たんだ。先生の葬儀にも来ないで」

   千葉、顔を上げる。

千葉「顔向けできないと思ったんです。あんな風に、勝手に逃げたから」
田中「じゃあ、なんで今……」
千葉「これを……、返しに」
 
   と、左手の万年筆を見る。

千葉「先生の万年筆、借りっぱなしだったので」

   田中、小さくため息をつく。
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