自分がもう一人欲しい
漫才
自分がもう一人欲しい
                                   作:海部守
時:
所:

登場人物
・A
・B

A   Bくんは自分がもう一人欲しいって思ったこと無い?
B   無いですけど、欲しいんですか?
A   うん。欲しい。むしろ一人じゃ足りないくらい。
B   そんなに自分を何に使うんですか?
A   俺がもう一人いたらそいつに働かせて俺は家で寝てればいいじゃん。
B   もう一人のあなたも同じことを考えますよ。争いが起こります。
A   えー、じゃあ意味無いじゃん。
B   そうですよ意味がないんですよ。だって自分自身なんだから自我も一緒
   です。同じようなことを考えますから。
A   じゃあ、自我を無くそう。自分では考えない。言われたことだけやるロ
   ボットみたいな自分を仕事場に送ろう。
B   そんなことしたら仕事場で何て呼ばれるようになるか。
A   なに? 何て呼ばれるようになるの?
B   きっと、無能とか使えないやつって陰口を叩かれるようになりますよ。
A   ああ、それは嫌だけどお給料がもらえるならいいや。ウェルカム罵倒!
B   ごめんなさい。あなた無能とか言うよりダメ人間でしたね。
A   いやいや人間らしいって言ってよ。
B   ただ、自分がもう一人いたとしても食費とかが2倍になるんじゃないですか?
A   いや、一人分より二人分を買う方がお得だったりするよ? 服のサイズも一緒だ
   し。趣味も同じだから出費は増えない。
B   そうですか?
A   Bくんはもう一人の自分に何をしてもらう?
B   なぜか私にもいるんですね。そうですね読書をしてもらいましょうか。あぁ、で
   も記憶は共有できませんよね。
A   それだと似た別人だから共有させよう。なんかなんとなくつながってる。
B   じゃあ、読書させます。
A   つまんねーな! おい!
B   大丈夫ですか? なんか情緒がおかしい人だと思われますよ。じゃあ、Aさんは
   何に使うんですか?
A   一緒にゲームでもしようかな。
B   人につまんないとかいいながらその答えはなんですか。もっとあるでしょ? 完
   全犯罪をするとか、ドッキリを仕掛けるとか。
A   いや、考えてみると案外、実際にもう一人自分がいるとなると面倒くさいなって。
B   自分勝手ですね。
A   そうなのよ。その自分勝手な人間がもう一人増えるわけよ。一人になりたいとき
   にも側に自分がいる。ホラーだよね。そうすると自分同士で殺しあいが始まって……
B   発想がもう異常者ですよね。
A   ダメだ! 自分がもう一人なんて耐えられない! 消えてくれ!
B   別々に暮らせばいいじゃないですか。
A   ……。Bくん天才! 解決しちゃった。
B   そもそもなんで自分がもう一人欲しいって思ったんですか?
A   ああ、それね。忙しいときに手伝ってもらう人に最初から全部説明するのがひど
   く手間でさぁ。わかる?
B   なるほど。そういうこともあるかもしれませんね。
A   色々わかってて手伝ってくれるなら人なら手間も省けるんだけどね。なかなかそ
   ういう人いないからさ。だから自分自身だったら話が早いなって。
B   Aさん、水くさいですよ。僕がいるじゃないですか。
A   お前ダメだよ。お前と俺は考え方が全然違うんだから、俺の仕事なんか出来るわ
   けねえだろ。
B   そこまで言うこと無いじゃないですか。どうしてそんなひどい言い方するんです
   か。それだったらもう一人の自分と漫才してくださいよ。
A   バカ野郎! お前じゃなくて俺同士だったらボケが続いて収拾がつかなくなるじ
   ゃねえか。いいか、俺は馬でお前は騎手だ。お前がいなくちゃ走れ……走れないこ
   ともないけど、俺という馬にはお前がいなくちゃダメなんだよ。

   見つめ合う二人。

AB  あ、オードリー。
A   あ! 俺が馬ならもう一人も入れてトリオにすればいいのか!
B   一人でも面倒で大変なのにAさんがもう一人増えるなんて絶対無理です。嫌です。
A   そんなこと言わないでよ。じゃあ、もう一人のBくんもいれて4人でやろう。
B   もう一人の私まだいたのかよ。もういいよ。ありがとうございました。
A   ありがとうございました。

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