傾奇狼
傾奇狼(かぶきろう)

五郎吉(ごろきち):町の無法者
由井 武勝(ゆい たけかつ):上級武家・由井家長男
義仁(よしひと):喜多川家家臣(左眼に眼帯をしている)
呉羽(くれは):大和屋女頭領
常磐(ときわ):橋上の和傘売り
喜多川 兼繁(きたがわ かねしげ):関東地方の一戦国大名(左眼に眼帯をしている)
その他エキストラ多数

<オープニング>雨が降る橋の上→現代・高等学校
雨音が鳴る中、舞台中央にスポット。1組の男女(義仁と常磐)が1つの和傘に入っている。2人は客席に背を向け、且つ和傘で顔が隠れている為、客席には傘を差しているのが誰かは分からない。

義仁:この鈴に、願いを込めて鳴らす。そうすると、鈴の音が願いを叶える。

暗転。義仁・常磐、退場。入れ替わる様に社会科教諭と高校生、登場。明転。

教諭:吉良上野介。

高校生:浅野内匠頭を虐めた挙句、切腹に追い込んだ。悪。

教諭:大石内蔵助。

高校生:亡き主君の無念を晴らす為、命を賭して悪を討ち取った。正義。

教諭:…「忠臣蔵」は脚色された創作だからね。モチーフとなった赤穂事件とは実情がかなり違うんだよ。今日の授業ちゃんと聴いてなかったでしょ。(嫌味っぽく)最初の5分以降ずっと居眠りしてたもんな。

高校生:あ、気付いてた?…でも、吉良上野介は悪、大石内蔵助は正義。これは間違ってないでしょ?

教諭:違うね。

高校生:えー、マジで?年末のドラマだとそんな感じだったけどな。

教諭:日本人は勧善懲悪が好きだ。懲らすべき悪が、目に見えて分かり易いから。だからそういう風に創られる。でも世の中の全てが善と悪で簡単に割り切れるモノばかりじゃない。そういう薄っぺらなラベルを貼れないモノだって、この世には数え切れない程ある。善と悪、そんな二元論には何の意味も意義も無い。

高校生:うーん、そうか。でも、流石にこいつは悪でしょ。だって、犯罪者だもん。(教科書を捲りあるページを指す)

教諭:どれ?(教科書を見て)ああ、これはまた面白い人物を選んだね。俺は信じてみたいけどなあ、この人の義を。

暗転

<1場>由井家→市中
明転。由井家道場で武勝が木刀を持ち剣術の稽古に励んでいる。側で師範が正座して、その様子を見守っている。

武勝:(木刀を構えながら)一つ、心中を無にすべし。(片足を踏み出し)一つ、相手の太刀筋を感ずべし。(木刀を振り下ろし)一つ、全霊を以って剣を振るうべし。

師範:そこまで。

武勝:まだ400回です。昨日も申し上げましたが、俺は1日1000回素振りをすると決めているのです。

師範:お前が早く強くなりたい気持ちは分かるが、1日1000回の素振りなぞ続けていればそれこそ命を落とすぞ。先ずは己の身体を第一に考えよ。

武勝:…承知致しました。…(木刀を構えながら)一つ、心中を無にすべし。

師範:承知しろよ!

武勝:ですが師範!

師範:(被せて)お前は頑固だ。

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