ビーストはベルを鳴らさない
ベルママの「美女と野獣」
ビーストはベルを鳴らさない

                               二宮 弘人

(男四人、女二人)
戸田花子(三十八)ベルママ。奔放。バツイチ。デザイナー。
戸田ベル(十七)文芸部員。日米ハーフ。俳句甲子園をねらっている。
モーリス(四十三)ベルパパ。  
王子虎太郎(コタロー)(十七)元野球部員。ベルに惹かれて文芸部員になった。
小路幸太郎(コータロー)(二十一)どろぼう。授業料が払えずに大学をやめた。
豪徳寺剛太郎(ゴウタロウ)(二十二)野獣のような強盗

一幕
一場

○七月、日曜日、午後2時。戸田花子の家。玄関と続きのリビングと隣の部屋。

   電話が鳴る(SE)花子が電話を取って、
花子 「はい。そうです。うん。ベルよ。うん。あはは。気のせいよ」
ベル 「ママ、誰から?」と隣室から顔を出す。
花子 電話の相手に「ちょっと待ってね」と言って受話器を手でふさぎ、
花子 「ママのお友達。ちょっとベル、静かにしてね」
ベル 「なーんだ。はーい」と言ったあと、隣室に引っ込む。
   ベルがいないのを確かめてから、花子、電話相手に、
花子 「ごめんね。ううん。だいじょうぶ。ほんとに。うんうん。そうだわ、それより、うちにおいでよ。だーいじょうぶ。ほんとに。来て。ママは今日は遅いから。夜まで誰もいないわよ。やった。うれしい。ドアの鍵は開けておくわね。ドアベルが鳴らないように静かに入ってきてね。目を閉じてドキドキしながら待ってる。楽しみ。うん。じゃあね」といって電話を切り、
花子 「やった」
ベル 「誰か来るの?」と、隣室から声だけで言う。
花子 「どうして?」
ベル 「今、そう言ってなかった?」
花子 「言ってないわよ。忘れたの?今日はママもおでかけよ。そろそろ行くわ」
ベル 「そうだったかな?ママ、どこに行くんだったっけ?」
花子 「あなた、ひとの話、いつもそうやって聞いてない。あきれた。いつものホテルよ」
ベル 「そう。じゃあ、帰り、遅いの?」
花子 「あなたは?」
ベル 「八時くらいかな。ねえ、もしママの方が遅かったら、あの桃、食べていい?」
花子 「いいわよ」
ベル 隣室から顔を出して「ありがとう!あれ?変ね。ダンスなのにいいの?そんな格好で」
花子 「これ?今日はママはお客さまだからこれで十分。もう行かなくちゃ。あなた、誰とどこへだっけ?」
ベル 「ママだって聞いてないじゃん。もえとお茶会。サラも来るかもって」
花子 「俳句甲子園のチャレンジメンバーね。じゃあ、どうしてコタロー君、呼んであげないの?」
ベル 「ああ、あいつ?あれ、ダメよ。『夏空や球春のぼくら光る汗』だって。笑える」
花子 「ほんとだ。夏空と汗で季重なり。しかも球春で季違い。更に字余り。すごすぎ。かわいいじゃない?」
ベル 「どこが?戦力外よ。当然補欠。仕方なく入れてるメンバーなんだから」
花子 「えー、じゃあ私がいただくわ」
ベル 隣室から顔だけ出して、「ママ、なに考えてんの?まさかなんか企んでないでしょうね」と言って、花子の顔色をうかがう。
花子 うろたえながら「まさかまさかの坂間先生」
ベル 隣室に入って「坂間先生?先生もお手上げよ。『文芸部始まって以来のポンコツ外人助っ人だ』だってさ。ねえ、行かなくていいの?」
花子 「行くわよ。ねえ、ベル。お茶会って言っても俳句の話なんでしょう?じじむさいわね。若いんだから、もっとパアって羽目を外したり、ゆるゆるしたりドキドキすればいいのに。『ベルさん、趣味は何ですか?』『はい。読書と俳句です。柿食えば金がほしいかホトトギス。ほーほけきょ』キャハハハ」
ベル 「うるさいわねー。ママがパーでゆるゆるドキドキ過ぎるのよ。何で娘の私がママのためにハラハラしなきゃいけないの?それにママだって、句会に行って五七五やってんじゃん」
花子 「ママは句会で感性の恋、ダンスで体の恋をしてんの。女はねー、骨になっても女なのよ。私だってあなたの服を着たら、けっこういけるんだから」
ベル 「なんか言った?」と言って着替えて出て来る。
花子 「緊急事態宣言の構造学的分析について」
ベル 「なにそれ?」
花子 「あら、かわいいわね。今度それにしよう」
ベル 「ママ、私の服、禁止だからね。ママはなにもかも持ってるくせに。スマホだってずるいわよ。ママだけ!いいかげんに買ってよ。うちの学校で持ってないの、私だけなんだから。おかげであだ名が石器時代。パゴス」
花子 「まあ、クールでホット。コタロー君も持ってないんでしょう?」
ベル 「あいつはいいの。野獣なんだから」
花子 「野獣、好きよ」
ベル 「ママ、そんなことばっかり言ったりやったりしてたら、そのうち刺されて死ぬわよ。注意したからね。ほどほどにね。あとはしーらない。やれやれ」
花子 「ベルと話すと楽しいわー。じゃあ行くからね。鍵閉めてね。もえちゃんによろしくね。行ってきまーす」
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