おかあさんだいすき (18分)
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ウチが貧しいと気付いたのは、小学校高学年の時です。宅急便が来た時にハンコを探して
たら、母の給与明細を見付けました。その額を見て、本当にギリギリなのを上手く工面し
てくれていたのを知りました。食べ物に困った覚えも、みすぼらしい服を着た事もありま
せん。でも、反抗期だった私は母を認めませんでした。普段化粧もしない母は、テレビで
見る綺麗な大人の女性とは程遠く感じて、勝手に見下して。会った事ないけど、どうせ父
もろくでもない人間だろうなって思い込んでいました。そんな二人が、性欲に溺れて交わ
って細胞分裂しただけ。自分は望まれて生まれてきた訳でもないんだろうなって。
一緒にいるのが嫌になって、奨学金の取りやすい地方の大学を選んで、一人暮らしをしま
した。初めはコンビニでバイトして、煙草の名前が覚えられなくて辞めて。水商売の体験
入店だけ、何ヶ所か行って。普通のバイトをしようとしてまた辞めて、それを繰り返し
て…。大学は途中で無意味に思えてしまって。辞める代わりに就職するつもりで、何処に
も決まらなくて。奨学金を返さなきゃいけないのに、保険とか年金とかもあって…。

『明日香の好きな様にしていいんだよ』

電話をするまで、責めたり怒られたりするんじゃないかって想像で頭が一杯でした…。小
さい頃を振り返っても、別にそういう風にされた覚えはないんです。なのに私が変にこじ
らせて一方的に避けていたから、母とどういう風に接していたかもよく思い出せなくなっ
てて。意固地になるのを辞めたっていうか、諦めたっていうか、とりあえず気持ちが楽に
なったのを感じました。

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私は地元でバイトを始めて、母とも前よりは会話をして、ようやくちゃんと生活を始めま
した。家事は分担してたけど、母は気になるところを見付けては掃除をしていました。そ
れが母なりの拘りなんだろうなと思って、しばらくは見ていました。

(拭き掃除をしながら)『…』
「そこ、さっきもやったでしょ」
(拭き掃除をしながら)『でも汚れてるの』
「もうやめなって」
(拭き掃除をしながら)『汚れてるの…』

母が同じ場所を何度も掃除する様になりました。反抗する気持ちは湧かなくて、ただ、恐
怖とか不安とか…。それまで目にしなかった一面に、正直、戸惑ってしまって…。

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母が近所のスーパーで万引きをして捕まりました。盗んだのは、ラムネと味付け海苔。母
は私に何度も何度も謝って、凄く落ち込んでいました。それから段々、普段の表情も暗
く、暗いというよりは生気のない、感情が見えない顔になっていきました。

「少しくらい休んだって大丈夫。今は私も働けるんだから」

頷いて、でも納得してなさそうで。家事も、あんまり出来ない日が多くて、私がやると
『疲れてるのにごめんね』って。母もそれなりな歳だし、更年期障害なのかもって、私は
少しずつ調べたりしました。

『今日は調子がいいから、明日香の好きなもの作ってあげる』

久々に母の笑顔を見ました。私の為に何かをしたいと思ってくれたみたいで、だから手伝
わずに待ちました。でも台所が静かすぎて。フライパンで炒める音も、包丁で切る音も、
何も聞こえなくて。様子を見に行ったら、母が立ち尽くしていました。

『どうしよう…。何、使うんだっけ? あたし、あんなに何度も…。どうやるんだか分か
んないんだよ…。好きだったよね、あれね?』

初めて、母の泣き顔を見ました。

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若年性アルツハイマーだと分かったのは、もうしばらく経ってからです。そこからは、ず
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